2009年11月22日

医療事故全国一斉相談受付のご案内

 九州・山口医療問題研究会のような医療問題と取り扱う弁護士の会は、全国各地に存在します。それらの会は、毎年、医療事故情報センター(名古屋)の呼び掛けにより、医療事故に関する全国一斉の電話相談受付を行っています。

 今年も、第10回となる医療事故全国一斉相談受付を、全国50カ所で開催します。
 九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団でも、以下のとおりの日時・電話番号で、常時弁護士が待機して、電話(6回線)による相談受付を行います。

  日時:11月28日(土)午前10時から午後3時
  電話番号:092−641−2007 

 医療の安全に対する信頼を揺るがせ大きな社会問題を引き起こした横浜市立大学病院での患者の取り違え事件や都立広尾病院の消毒薬誤注射事件から10年、医療をめぐる情勢は変わろうとしています。医療事故については、死亡事案について原因究明調査を行っているモデル事業を、新たな法律に基づく死因究明制度として立ち上げるため、厚生労働省が「大綱案」を出し、全国の医療被害者をはじめ多くの市民が中立な第三者機関の設立を待ち望んでいるところですが、政権交代なった今、先が見えない状況です。
 今回の一斉相談受付は、改めて医療事故が身近な問題であることを明らかにすると共に、その情報を広く共有して、安全な医療を築くための一助とすることを目的としています。
 医療事故に遭ったかも知れないとお悩みの方は、電話受付ですので、お気軽にご相談下さい。

posted by 管理人 at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | イベント・催し物等

2009年11月15日

アメリカ医療改革法案下院可決について

 このところオバマ大統領の支持率低下についてあれこれ取りざたされています。その2大原因ともいうべきものがアフガン問題と医療制度改革です。ここでは医療制度改革についてご紹介します。

 ご承知の通り、アメリカには国民保険制度がありません。だから高齢者と一部弱者を除いて、アメリカ国民は自分の健康保険を買わなければなりません。定職に就くことができ一定以上の収入があれば保険料を負担できますが、無保険状態にある人が人口の15.8%、4700万人もいます(2006年時点)。
 公的医療保険の導入は、オバマ大統領の所属する民主党にとっては長年の課題でした。クリントン大統領の時代にも法案作成まではこぎ着けましたが、共和党の強硬な反対によって廃案となってしまいました。
 今度こそ高い支持率を背景に、拡大する貧困層や経済格差の広がりによる社会問題が深刻になっている現状を踏まえ、広い支持を取り付けて立法化を実現したいところですが、共和党をはじめ反対派による激しいネガティブキャンペーンが展開され、また支持を得るための妥協によって元々の案から後退せざるを得ないなどのために、法案を通過させることがたいへんに厳しい状況にあります。
 ところで、この法案、上院と下院と双方で審議されることになりますが、同じ医療制度改革法であっても、それぞれ持ち込まれる法案は別個のもののようです。去る11月7日土曜日の夜遅くに220票対215票というまことに僅差で下院を通過しました。党派を超えて支持される法案を目指したものの、共和党員で賛成票を投じたのは1名のみ。また民主党員でも、保守派が多くを占める地域選出の議員をはじめ39名が反対票を投じています。
 それはともかく、相当困難であるとされていた下院通過がかなって、オバマ大統領はじめ法案を推し進めてきた議員達は勢いづいているもののよう。今後上院での審議を経て、上院の法案も可決されれば、両院の法案を調整した上で作成する最終案が大統領の机に届けられることになっているとのことですが、上院では下院と違い、6割の賛成票が得られなければ可決されないとのこと。まだまだ長い道のりを必要とします。
さて、当日のニューヨークタイムズの記事をご紹介します。


医療改革法下院通過

 下院は土曜日の夜、かろうじて、民主党がその社会政策の成果と位置づけられるとする法律を推進することによる国内の医療システムの総点検法案を可決し、オバマ大統領に厳しいたたかいにおける勝利をもたらした。
 一日がかりの共和党との激烈な議論の後、それは数十年にわたる民主党の目標だったわけだが、国会議員達は220対215で10年間に1.1兆ドルを必要とする計画を採択した。民主党議員達は法律が医療保険を維持しようと苦闘しているアメリカ国民に延び延びになってしまったものの安心を提供するだろうと説明している。
 「今こそこの国の医療を改革するときだ」とカリフォルニア選出の民主党議員で法案の主要な立案者のひとりであるジョージ・ミラーは述べた。
 民主党は最終投票における通過を確実にするため、中絶の保険負担について大きな妥協をすることを迫られた。それは、多数の中絶権擁護者にとってはゆがんだ妥協であった。
 彼らの多くは、今や医療制度改革闘争の主戦場となることになる上院との交渉までの間に修正案を変更し、議場における広範な議論に耐えうるものにしたいと考えている。
 民主党員達は、(メディケアの予算を削ると共に新たな課金と税金を課すことによって賄われる)下院の法案は、政府による保険プログラムが創設されるまでの間、現在無保険状態の3600万人に対象を広げることになる、それは既往症をカバーせず、病気になった人々を切り捨てる保険会社の運用を終結させるだろうという。
 共和党は投票を批判し、法案が立法化されるまでの間反対を続けると述べた。「この政府による買収は大統領の机にたどり着くまでにまだまだ長い道を必要とする。したがって私はあらゆる手段を尽くしてあらゆる機会において戦いを継続するつもりだ」と、テキサス州の共和党議員ケビン・ブラディは述べた。
 下院の議場では、ここ数日間下院議員から賛成票を取り付けるために指導者達が数え切れないほどの時間を費やした末に、掲示板が218票目の決定的な投票を明らかにしたとき、民主党員はハイタッチを交わして喜びを交わし、荒々しく祝福した。他方共和党員達は沈黙したまま着席を保っていた。
 「我々はアメリカ国民に我々がやると約束したことをやったのだ」と多数党院内総務であるメリーランド州の民主党議員ステニー・ホイヤーは述べると共に、「まだ多くの仕事が残っている」と注意を促した。
 この成功した投票は、オバマ氏が立法議員達に「歴史の呼び声に応えよう」、そして法案を支持してほしいと個人的に訴えるためにキャピトル・ヒルを訪れた日に訪れた。
 共和党議員ではルイジアナ州選出のアン・カオ議員のみが賛成票を投じ、39名の民主党議員が反対票を投じた。下院はまた共和党のより緩やかな法案、その立案者がより常識的で財政的な責任のあるアプローチと述べたものを否決した。
 法案に反対した民主党員は主として保守派の地域から選出されており、法案に賛成票を投じることが来年の中間選挙において政治的な危険因子となると考えたものと思われる。
 「今日の投票は苦しかったが、社会保障法案を通過させた1935年もそうだった」と下院の長老であるミシガン州選出の民主党議員ジョン・ディグネルは、土曜日の夜遅くに終了した討論について述べた。
 民主党員の中には法案の中に進歩を認めることができたので投票したと述べる者もいる。
 「この法案は上院においてもっと良くなるでしょう」と法案のいくつかの条項について批判を明らかにしたものの支持することに決めたテネシー選出の民主党議員ジム・クーパーは述べた。「もしここで否決してしまうと、改善する機会を失うことになる」
投票後、オバマ氏は演説において下院を称えると共に上院にこの採決に従うように呼びかけた。「私はそうなるだろうと間違いなく確信している」と彼は言い、「今年中には包括的な健康保険改革法案を施行するために署名できることを期待している」と述べた。
多数党のリーダーであるネバダ州の上院議員ハリー・ライドは法案をできる限り速やかに議会に提出するつもりだと述べた。
 投票は、2006年の民主党の下院における勝利から3周年の日に行われ、その下院通過は法案を1993年にビル・クリントン大統領によって試みられた医療見直し法案を超えたものとした。
 立法者達はオバマ氏が投票の直前に民主党員達と行った非公開の会議に出席していた間に、数名の反対意見の議員を転向させたと考えた。
 また民主党員の多くは、予想されたより困難であることが分かった勝利を、ナンシー・ペロージ議長が押し込んだと信じている。「彼女は本当の意味でこの問題について針に糸を通したのだ」とマサチューセッツ州の民主党議員ジム・マクガバンは述べた。
 重要なターニングポイントは、ペロージ女史が金曜の夜に中絶反対派の民主党員に、連邦予算を使うあらゆる保険計画のもとにおける処置に対する支払の制限を強化しようとすることを認める決定を行ったことにある。その妥協は一定の民主党員が法案を見捨てる脅威を和らげたが、また中絶権を支持している左派民主党員らを自分達が激しく批判していた規定に戻るか、それとも法案を棄てるかの選択に直面させることとなった。法案に対し、240対194の可決で新たな中絶制限が加えられた。
 オバマ氏は民主党員達に40年前の高齢者に対するメディケアの創設以来の最大の医療立法を支持するよう勇気づけるあらゆる努力の一環として、週末には滅多に顔を見せないキャピトル・ヒルに現れた。
 キャノン・コーカス・ルームにおける民主党員達との個人的な会合において、大統領は共和党員全員一致の反対と保守派の厳しい批判にさらされているという政治的な厳しさが存在することを認めた。
 しかし、大統領は「私はローズ・ガーデンにおいてこの法案に署名するなら、君たちの誰もが将来そのことを思い出し、『これは私の政治活動における最良の瞬間だった』と振り返るだろう」と言って励ました。
 共和党員達は法案はコストがかかりすぎ今後数十年にわたって国家に重荷を負わせる結果となると述べた。民主党員の中にも反対理由を説明する際に同じ見解を明らかにした者もいる。
 「この法案は全経済に対する建物解体用の鉄球である」とジョージア州の民主党議員ジャック・キングストンは述べた。「我々は医療の割れ目に落ち込んでしまった人々を救済することを目的とした具体的な改革を必要としている」
 しかし民主党員らは、共和党員らは医療の現状における地位を守ろうとすることに心を砕いているが、民主党の新たなアプローチはアメリカ国民の可能性を広く高め、無理のない健康保険を獲得できるようにするだろうと述べた。
 「今こそ我々の医療制度を整え、数十万人のアメリカ国民の生活を改善させるチャンスだ」とニューヨーク州民主党議員で議事運営委員会座長のルイス・スローターは一日がかりの討議を開始するにあたって述べた。
 共和党の反対の壁は民主党員達にほとんど戦略の余地を与えず、彼らはできる限り多くの議員を囲い込もうと試みた。しかし議論の方法を明確にするための予備投票は242票対192票となり、民主党の勝利が手の届くものになったことを示していた。
下院の投票はこの国において医療が供給される方法を大きく変革する法律を制定する民主党の念願の目標に関する重要なステップである。しかし上院はまだ独自の新たな法案を審議せねばならず、2つの議会は来たる数週にわたって交渉しさらに最終案を承認しなければならない。
 下院の民主党議員達が法案のために最低限必要な数の投票を集めるために必要とした努力は大統領の机に最終的に法律を届けることがいかに困難であるかを明確に示すものであった。
 下院の法案は、約2000頁に上り、ほとんどのアメリカ国民が健康保険に加わるかペナルティを支払うことを要求しており、共和党員達はそれを政治による抑圧と同視すべきアプローチであるとしている。
 雇用者のほとんどは保険を提供するか最大その給与の8%の追徴税を払わなければならない。法案は、メディケイドを大いに拡張し、中程度の所得階層の人々が私企業または政府の保険計画から保険を購入することを支援する助成金を提供するものである。それはまた人々が購入する保険を選ぶことのできるような保険の改革を実現するものである。
共和党員達は、下院において、無保険者の内30万人のみに適用を広げるより緩やかな自分達の計画を推し進めようとした。しかし、その立案者はその計画は彼らが多くのアメリカ国民の主たる関心であるプライベートな保険の掛け金を引き下げるものだと述べた。
「税金が高ければ高いほど、浪費が増え、ますます政府は人々の支援を改善する計画をしなくなる」と民主党案を休みなく批判し続けた保守派のノースキャロライナ州共和党議員バージニア・フォックスは述べた。
 しかし、民主党員達は、自分達の提案は長いこと延び延びになっていたが、医療保険を獲得し維持しようと格闘しているアメリカ国民の高まる不安を取り除くものであって、高騰する医療費を管理下に置くことによって経済問題を究極的には改善するものであると述べている。
  「我々の計画は完璧なものではないが、全てのアメリカ国民に対し、利用可能な医療を供給するための良いスタートである」とオレゴン州の議員ペーター・デファジオは述べた。

(11月7日NYTimesのWebサイトより翻訳)
posted by 管理人 at 17:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 医療制度関係

2009年10月18日

医事用語のいろは 3

は:肺水腫(pulmonary edema)

 肺うっ血の強い左心不全などにより、血清が血管外に漏出し、組織間液が増加し、さらに肺胞内へと漏出した状態で、強い呼吸困難により、ほとんどの場合、起座呼吸となり、湿性ラ音を広汎に聴取する病態。
 「急性で重篤な肺水腫が起こり、循環不全から、心停止を来たして死亡した。なぜこのような肺水腫が起こったのか。分からないし、避けられないし、予期できない」。
 よくある医療側の免責ストーリーです。医療過誤訴訟では、原因を隠し、あるいは結果を原因であるかのように、原因を結果であるように、偽る。この偽りのうえに、原因は不明であり、予見も、回避も不可能だったとの主張を展開する。難しい医療用語とともに。

 こんな事件があった。50歳台の女性。子育てを終え、すこし自由になった。お金も時間も。持病の足を直して、夫と旅行にでも行きたい。そう思って人工骨頭置換術を受けることにした。手術場に入り1時間もしないで彼女は低酸素脳症による重篤な脳障害を来たした。以後、数年間、寝たきりで、夫のことも子のことも分からず、ときに行ったこともない観光地をめぐる旅行の思い出の話をした。

<病院の説明>
問 なぜ、妻は足の手術を受けて、低酸素脳症になったのですか。
答 急性の重篤な肺水腫が出現したからです。
問 なぜ、そんなことになったのですか。
答 われわれにも分かりません。避けようもありませんでしたし、予測することもできませんでした。

<裁判での麻酔医の証言>
(主尋問)
 麻酔導入を始め、体位を変えて、数分くらいした頃、患者さんの顔が悪く手足にチアノーゼが見られた。研修医に持たせていた、アンビューバッグを取り上げて押すと、固くて酸素が入らなかった。後にレントゲン写真で肺水腫が確認されたが、このときにはすでに原因不明の肺水腫が出現していたと思う。
(反対尋問)
問 本件では、麻酔下における挿管不全によって、酸素拒絶、循環不全、心不全、肺水腫を生じるとともに、その間の低酸素状態の持続が重篤な脳障害をもたらした、違うか。
答 具体的に考えられる経過としてはそれがもっともである可能性があると思う。
問 麻酔導入に際しては、管の端末が気管支の壁あるいは分岐に接して、喚気不全を起こすことがある。挿管後、肺へのAIR入りを確認して固定しなければならないし、体位変換をしたときには、それがずれることがあるので再確認が必要であるとされている、違うか。
答 そうだと思う。
問 体位変換後にAIR入り確認していないね。
答 していません。

 結局、麻酔医が体位変換後のAIR入りを確認しなかったことを、病院が過失と因果関係を認めて和解。
 朴納とした夫は、一生続けてきた仕事を息子にすべて任せて、彼女が長期療養型病床のベットで息を引き取るそのときまで 、毎日、彼女の世話をしながらそのとんちんかんな旅の思い出話に相槌を打ちつづけたという。

{類似語}心不全(heart failure)
心臓の収縮性が低下し、末梢組織に必要な血液を送れない状態。原因が心臓か肺かを除けば同じ循環不全の症状を示す。「原因不明」の冠をつけて免責ストーリーがまことしやかに語られるところも同じ。

{一口メモ}心不全に肺水腫、「原因不明」は過誤隠し。

(八尋光秀)
posted by 管理人 at 10:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 読み物

2009年10月09日

医事用語のいろは 2

ろ:労作性狭心症(effort angina)

 冠動脈硬化を基盤として起こる。冠硬化により冠動脈狭窄が生じ、労作時の血流増加が制約される。このため生じる心筋虚血が胸心痛をもたらす。発作寺の心電図変化で診断。心筋梗塞の見落としによる広範な心臓機能障害を来たして、依頼人は医療研の門をくぐる。
労作性狭心症が前駆となり小規模の心筋梗塞から、大規模なそれへ移行してもなお見落とされることがある。胸心痛は、一様ではない。胸が痛いというよりは鳩尾が痛いとだけ言い、あるいは左肩から背中にかけて痛いとだけ言い、あるいは気分が悪くなんか不安がいっぱい、と言うだけのこともある。
 発作を過ぎれば、心電図に異常が見られないことがある。また、心筋梗塞に特有の血液検査(CPK,GOT,LDHなど)における心筋由来の血清酵素値異常も急性期には一旦上昇するが、そのうちおさまる。元気そうで、酒、タバコが大好きで、がっしりとした大柄の体格。こんな人が見落とされやすい。

 二つの事例がある。
 二日酔いで気分が悪くなり、受診。心電図をとっても異常なし。左肩が痛いと言うがまあ様子を見ようということでそのまま帰す。無理して仕事について大規模な心筋梗塞の発作。治療の遅れによる不可逆的な心筋壊死。
 深夜から、吐き気と胸苦しさと不安、風邪と思い受診。風邪と診断し風邪薬を出して帰す。このとき血液検査。後日の報告でGOT,LDHの異常値発見。肝癌のおそれがあるといって再診をさせ、再検査で正常値。念のため肝臓薬を処方。半年後の健康診断で陳旧性の広範な心筋梗塞性壊死を確認。

{類似語}心筋症(cardiomyopathy) 狭心症と症状が類似すると言われている。心筋の変性・壊死が血流循環不全の主たる原因であるところも似ているが、変性・壊死の範囲が冠動脈梗塞域に限られないところに違いがある。多くは原因不明とされ、既知の心疾患を除外して診断するとされる。
{一口メモ}心臓の痛みは肩や背中や鳩尾に

(八尋光秀)
posted by 管理人 at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 読み物

2009年10月02日

医事用語のいろは 1

 新シリーズ、医事用語をいろはで解説。

い:イレウス(ileus)

 腹痛を主訴とする。ときに正確な診断をつけようと手をこまねいているうちに、少なからず患者の生命を奪い、担当医師を医療過誤訴訟の被告席に座らせる疾患。とくに絞扼性。これまで、何件か経験しました。

 そのうちの1件。急な激しい腹痛に見舞われて病院に駆け込む。医師は、鎮痛剤を処方し様子を見る。
 こらえてもこらえても痛みは治まらず、我慢強い患者は医師に気をつかいながら、かつて経験したことのない痛みとその執拗な持続を、遠慮しながら控えめに繰り返し述べる。
 死んだほうがましというほどの痛みをこらえながら、薄笑いを繕って。「我慢できません」と。医師は辛抱の足りない患者の大げさな表現だと見抜いたような気になり、鎮痛剤をプラセボ(塩水)に変えて注射。その後、24時間近くも経過観察。重症のショックとなり開腹するも小腸のほどんど全部が壊死して、回復せず。術後も全身状態が持ちこたえられず死亡された。

 良心の医師は語る。イレウスとくに絞扼性の場合、急な激しい腹痛から始まる。これが12時間持続すると小腸の壊死化を否定しえない。腹水がたまり、血流量が減少し、あるいはエンドトキシンと言う毒素が広がり、引き続き12時間で、敗血症性あるいは循環性ショックが成立してもおかしくない。
 この場合、イレウスの典型所見がすべて出そろうわけではない。いずれにせよ、ショックが完成する12時間ないし6時間くらい前にでる、プレショックの症候を見落とさないことが肝要。血圧が一旦上がり後に下がり始めるとともに脈拍が上がる。脈拍が収縮既決圧の0.8程度に迫ってきたら、緊急の試験開腹を決断すべきポイントだと。
 裁判で言う人はなかなかいないが。

{類似語}急性腹症(acute abdomen)急激な腹痛を主症状とする腹部疾患にして、早急に手術を行う必要がある疾患を総括して急性腹症という。たとえ診断が確定しなくても診断のために時間を費やすことなく、早期に回復して診断を下した上、適切な処置を施行すべきであるという概念から生まれた呼称。(南山堂医学用語辞典)

{一口メモ}イレウスは急性腹症で試験開腹

(八尋光秀)
posted by 管理人 at 20:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 読み物

2009年09月29日

死因究明制度シンポ(2009年4月18日)

 4月18日、九州・山口医療問題研究会等の主催で、死因究明制度に関するシンポジウムを行いました。時間が経ってしまいましたが、そのご報告をいたします。


シンポジウム「医療事故の再発を防止するために〜医療事故死の原因究明制度を考える〜」


 2009年(平成21年)4月18日、医療事故防止・患者安全推進学会、患者の権利法をつくる会、九州・山口医療問題研究会が主催となり、医療事故死の原因究明等を目的とする「医療安全調査委員会」(仮称)設置をめぐるシンポジウムが開催されました。


sinpo.jpg


1 医療事故死の原因究明等のための新制度をめぐる現状
 1999年(平成11年)の都立広尾病院事件等を契機に、医療事故死の原因究明・再発防止のための調査を行なう第三者的専門機関の設置の必要性が提言されるようになりした。現在では、厚生労働省から、これらの調査を担う「医療安全調査委員会」(仮称)の設置を中心とした第三次試案・医療安全調査委員会設置法大綱案が提出されるとともに、この委員会設置法の施行へ向けたモデル事業として、全国10地域で診療行為関連死の調査・分析事業が行なわれています。
 現時点で想定されている原因究明制度の仕組みとしては概ね以下のとおりです。
 @医療死亡事故の発生→A医療機関からの届出(遺族からの調査依頼)→B医療関係者を中心に、医療を受ける立場の有識者・法曹関係者を交えて構成される医療安全調査委員会による調査、評価→C調査報告書の作成→D再発防止策の提言・公表・事故発生医療機関等への行政処分・一定の場合に捜査機関への通知等


2 各パネリストの発言
 今回のシンポジウムでは、上記の原因究明制度に関して、それぞれ異なる立場の4名のパネリストから発言を頂きました。

(1)吉野拓野氏(厚生労働省医政局総務課医療安全推進室)
 吉野氏からは、厚生労働省の担当者の立場から、前述の第三次試案・大綱案の要旨として、原因究明制度の必要性、原因究明制度の仕組み、院内事故調査との関係(医療安全調査委員会の調査に付された事案でも当該医療機関には医療安全の観点から原因究明を行なう責務がある)、医療安全調査委員会から捜査機関への通知の基準(故意、標準的医療からの著しい逸脱、関係物件の隠滅・偽造・変造、リピーター)、調査後の行政処分(個人の責任追及でなく、再教育・医療機関の体制整備を重視)等が説明されるとともに、法案実施までに順次モデル事業を全国規模に拡大していく見通しが示されました。

(2)永井裕之氏(都立広尾病院事件遺族・医療の良心を守る市民の会代表)
 永井氏は、ヘパリン入り生食と間違って消毒薬が注入された都立広尾病院事件で奥様を亡くされたご遺族です。
 同氏からは、事件後の医療機関側の不誠実な説明に不審を抱いた経緯を踏まえ、事件当時から医療機関側の意識や医療事故調査への姿勢は変わっていないのではないかとの問題が指摘されました。また、医療事故の被害者・遺族の願いとして事故発生の真相の説明・心からの謝罪・再発防止を指摘し、そのための事故発生時の院内事故調査の充実と、中立公正な第三者組織である調査機関の早期設立を求められました。

(3)小西恭司氏(医師・全日本民医連副会長)
 小西氏からは、原因究明制度に対する民医連の意見として、@民医連としては医療安全調査委員会設置につき基本的に積極的な立場に立つこと、A調査委員会の任務は原因究明・再発防止に絞って調査報告書作成で終了とし、責任追及を任務とすべきでないこと、B独立性を保って省庁に提言するため、調査委員会は(厚生労働省下などでなく)内閣府下の機関として設置されるべきこと、C地域における解剖ネットワークの構築の必要性、D「重大な過失」「リピーター」の評価には価値判断が入るため、捜査機関への通報対象から外すべきこと、E再教育や行為制限(難度の高い手術の禁止等)を中心とした医療界による自律的行政処分を確立すべきこと、F原因究明制度が展望を持つためには、解剖医等の人材養成、及び公的医療費抑制政策を転換して十分な財政確保が必要であること等が提言されました。

(4)木下正一郎氏(弁護士・医療版事故調推進フォーラム事務局)
 木下氏からは、患者側弁護士として原因究明制度を推進する立場から、従前の医療事故調査の問題点(医療や医療事故が透明性・再現性に乏しい、公正中立性・専門性の問題、調査経験が乏しい、同僚審査の風潮の未確立)があげられ、高い専門性・中立性といった調査の質を維持し、日本全体の医療事故防止・医療安全のため、また院内事故調査の促進や改善のためにも、第三者機関による調査が必要である旨が訴えらえられました。また、捜査機関への通知基準のひとつである「標準的な医療から著しく逸脱」につき、故意または故意に匹敵するほど悪質な場合に限定する方向であることが述べられました。


3 パネルディスカッション
 以上のようなパネリストからの発言の後、小林洋二弁護士をコーディネーターとして、会場からの質問を交えたパネルディスカッションが行なわれました。
 議論の内容は、原因究明制度と医療崩壊との関係といった大きなものから、年間2000例という厚生労働省試算の根拠といった細部まで多岐にわたりましたが、その中から個人的に興味深かった論点を紹介します。

(1)第三者機関である医療安全調査委員会の設置を推進するが、最終的には当該医療機関内部での事故調査・反省・再発防止の充実が望ましいとの意見
 永井氏:被害者としては、医療関係者中心の調査では、隠されるのではないかという危惧を抱くのも事実ではあるが、事故の反省は、本来は当該事故現場でやらないと良いものが生まれない。したがって、現在の第三者機関が調査する制度を枠として整え、その後は、各医療機関自身が院内で実行していけるようにすべきだと思う。自分のメーカー勤務としての経験からも、食の安全につき不祥事を起こした企業の事件の風潮に鑑みても、これが出来ない医療機関が今後は潰れていくのではないか。

(2)試案に対するパブリックコメントで指摘された、原因究明・再発防止と被害者対応は1つの機関で行わずに分離すべきではないかとの論点をめぐる意見
 木下氏:被害者が求めるのは金銭的救済のみではなく、@原状回復、A原因究明、B謝罪、C再発防止、D補償がある。現実には@原状回復は困難なので主眼はA〜Dになるが、まず原因究明ありきで、原因究明の後に謝罪や補償がなされ、再発防止策も生まれる。したがって、原因究明と被害者対応は別物ではなく、原因究明が被害者対応の出発点と考えられる。
 小西氏:この点については、調査委員会の調査が、被害者とのメディエーション(注:解決に向けた話合い)抜きには考えられないということからも言える。調査委員会の調査として被害者から聞き取りをする、その際に被害者からの疑問に答えるなど。
 木下氏:つまり、調査をすることが被害者対応になるし、被害者対応をすることが調査にもなるという関係にある。
 永井氏:原因や本当のことを知ること、分かり易く説明をうけることが、一番の患者対応である。

(3)原因究明制度が医療崩壊につながっていくのではないかとの論点をめぐる意見
 吉田氏:医療安全調査委員会設置法案提出の目的の1つである「医療リスクに対する支援」は、医療関係者への支援を意味する。すなわち、現在は、医療事故が刑事事件になると、強行班による捜査・厳しい取調・刑事裁判の負担があり、民事訴訟になると2年間は対応に追われる。このような医療事故による医療関係者の負担を軽減し、調査委員会がブロックする、代替するといった意味である。
 吉田氏:前述のとおり、医療関係者は、原因究明制度によって、刑事責任追及・民事訴訟にさらされるリスクに対して安心して医療を提供できるようになる。逆に、現在の刑事責任追及・民事訴訟だけでは、1つ1つの事案が次の再発防止策等へつながっていかない。そのために患者側の不満が大きくなり、問題が大きくなって、訴え提起へとつながっていってしまうのではないか。
 永井氏:被害者が訴えることが医療萎縮につながるとの指摘があり、確かに医療崩壊の一因かもしれないとは思う。しかし、患者としては、医師からの事前のリスク説明と、事故後の事故原因の説明が不足しているために、「医療の不確実性」というものが理解できない。そのために、不満が大きくなり、問題が大きくなっている。近年、患者側から医師に対して説明を求めることが多くなったのは事実であるが、そのような時流なのであるから、医師側が時流に対応すべく意識改革をすべきではないか。
 小西氏:現在、救急分野では、36時間勤務はざらであるし、48時間勤務も珍しくない。医師の労働過密が尋常ではなく、メンタル面でも苦しい。そのために外来の受け入れ縮小を迫られている医療機関もある。しがたって、医療崩壊の防止のためには、医師と予算の増加が必要である。今回の医療事故調査委員会の設置が、即、医療崩壊を防止できるとは思えないが、委員会設置が医療崩壊防止の1つとなるなら、国家予算をきちんとつけるべきである。


4 おわりに
 シンポジウムの最後には、現在までに原因究明制度を設定すべき必要性がある点については論議され尽されており、今後は、仕組みや予算といった原因究明制度をどのように実施していくべきかへ論点を移すべきとの方向性が示されるとともに、委員会設置法案が早期に提出されるよう推進していくことが確認されました。
posted by 管理人 at 20:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 死因究明制度

2009年09月23日

医療基本法を知っていますか

 みなさんは、「医療基本法」という法律をご存知でしょうか。知らない、という方がほとんどでしょうね。実は、この法律はまだ制定されていませんし、いまのところ法案としても存在しません。「医療基本法を制定しようではないか」、「患者の権利を医療基本法の中に書き込もうではないか」という動きが、つい最近、始まったところです。

医療基本法とは何か
 「基本法」とは、一般に、国政に重要なウエイトを占める分野について、国の制度、政策、対策に関する基本方針・原則・準則・大綱を示した法律です。日本には、いま、私の知る限り35本の「基本法」があります。最も古いものは昭和22年制定の教育基本法(最近、抜本的に改悪されてしまいました)であり、最も新しいものは平成20年制定の国家公務員制度改革基本法ですが、35本中27本は平成になってから制定されたものです。これは、現代社会が複雑化、高度化するなかで、一定の行政分野における政策の基本的方向を定め、関係政策の体系化を図ることが重視されるようになったためだと言われています。
 基本法は、基本理念、国・地方公共団体の責務、基本計画の策定、計画・施策に関する諮問機関の設置を定めるという構成が一般的ですが、障害者基本法、消費者基本法、犯罪被害者等基本法、男女共同参画社会基本法等国民の基本的人権に直接関わる分野においては、基本理念の中で、その分野における国民の権利が明らかにされています。
 医療は、国政上極めて重要な課題であり、医療なくして基本的人権の保障はありません。医療に対する国民の不安感が高まっている今日、患者の権利を明らかにする医療基本法を制定しようという声が上がってきたのは自然なことともいえます。

患者の権利宣言から患者の権利法へ
 「医療基本法」という名前こそ最近でてきたものですが、同様の法律を求める運動は古くからあります。「患者の権利法」制定運動がそれです。
 日本における患者の権利運動は、1984年10月の「患者の権利宣言案」(患者の権利宣言全国起草委員会)発表に始まります。この「患者の権利宣言案」は、医療に関係する様々な場所、団体で患者の権利に関する議論を深め、それぞれの患者の権利宣言を採択してもらうための叩き台として発表されました。私たち九州・山口医療問題研究会も、全国起草委員会の一員として「権利宣言案」の策定に向けた議論に加わるとともに、1987年6月には研究会独自の「患者の権利宣言」を採択しています。
 患者の権利宣言運動は、全国保団連の「開業医宣言」(1989年)、日本生協医療部会の「患者の権利章典」(1991年)といった医療提供者側での成果を生み出しつつ、1991年10月には、患者の権利法をつくる会の結成及び同会による「患者の諸権利を定める法律要綱案」の発表へと発展します。なお、1990年に横浜で開催された第12回医療問題弁護団・研究会全国交流集会で権利法運動を呼びかけたのは他ならぬ九州・山口医療問題研究会であり、現在、患者の権利法をつくる会の事務局長をつとめているのは不肖小林ですが、それはさておき。
 なぜ、権利宣言運動は権利法制定運動へ発展する必要があったのか。それは、医療は現代社会における公共政策の重要課題であり、医師対患者という個別の診療契約だけで患者の権利を擁護・実現するには限界があるという認識に基づいています。国、地方自治体の医療政策が、患者の権利を擁護・実現する方向のものでなければならない。そのためには、患者の権利を、全ての医療政策の基本理念として法律で定める必要がある。つまり、患者の権利法制定運動は、そもそも医療基本法を求める運動であったと言えます。
 患者の権利法をつくる会の法律要綱案はこちらです。
   http://homepage.mac.com/kanjanokenriho/kenriho/kenriho/draft.html

患者の権利法から医療基本法へ
 1997年、薬害HIV事件を契機とするNIRA(総合研究開発機構)研究報告「薬害再発防止システムに関する研究」が患者中心の医療を確立するための「患者の権利に関する法律」の制定を提唱しました。また、2005年の日弁連法務研究財団「ハンセン病問題に関する検証会議」最終報告書も、公衆衛生政策による人権侵害の再発防止策の柱として「患者・被験者の権利の法制化」を挙げています。つまり、医療を巡る人権侵害がクローズアップされるたびに患者の権利法の必要性が指摘されてきたといえます。
 そして、上記の検証会議の提言を受けた「ロードマップ委員会」(正式名称;ハンセン病問題の検証会議の提言に基づく再発防止検討会)での議論が始まった2006年頃から、「医療崩壊」という言葉がマスコミを賑わせるようになりました。日本医師会をはじめとする様々な医療提供者側の諸団体の役員が委員として参加したこの検討会が、「医療政策による人権侵害再発防止策としての患者・被験者の権利の法制化」を、より積極的に「患者の権利擁護を中心とした医療基本法」として提言した背景はここにあります。つまり、医療を提供する側からも、自分たちが携わっている医療という仕事がどうあるべきなのか、この国は医療に対していかなる責任を果たすのかを明らかにしたいという声が上がってきたのです。
 この医療基本法の提言は、内閣府の安心社会実現会議でも取り上げられ、その最終報告「安心と活力の日本へ」は、患者の自己決定権・最善の医療を受ける権利を規定する基本法の制定を、2年を目途に推進すると謳っています。
 ハンセン病問題に関する検証会報告書は
   http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/hansen/kanren/4.html
 ロードマップ委員会の報告書は
   http://sociosys.mri.co.jp/hansen/hansen.html
 安心社会実現会議の報告書は
   http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ansin_jitugen/index.html
からそれぞれアクセスすることができます。

医療基本法の制定を!
 権利宣言運動から権利法制定運動へと続いてきた患者の権利運動は、インフォームド・コンセント理念の普及、カルテ開示の制度化、医療安全への取組強化などさまざまな成果を生み出してきました。しかし25年前から問題が指摘されていた救急医療や周産期医療の体制整備は未だ解決できないままであり、むしろ医療費抑制政策の下、矛盾が拡大しています。また、医療費の窓口負担や健康保険料は増加し続け、経済的事情から医療を受けられない人が増えつつあります。
 総選挙に勝利した民主党は、マニフェストに救急・産科・小児科・外科の医療供給体制再建、医師養成数の1.5倍増、スタッフ増員に対する診療報酬上の評価等の医療政策を掲げています。こういった施策が必要であることは、ほとんど異論のないところでしょう。しかし、忘れてはならないのは、これらの施策を実現するためには、医療に対する恒常的な財政支出が必要だということです。これは、最終的には国民の負担として跳ね返ってきます。それは、おそらくは予算の無駄遣いを省くといった弥縫策で何とかなるようなレベルではありません。公共事業、防衛といった様々な支出項目の中からどれを重視するか、どの程度のどのような形での税負担を甘受するかという価値選択の問題なのです。医療の基本理念を明確にせず、医療及び医療政策に対する国民の不信を解消しないまま、単に場当たり的な財政出動をしても、ごく近い将来に行き詰まり、揺り戻しがくることは避けられないのではないでしょうか。
 このような問題点を解決するための出発点が、医療基本法です。
 九州・山口医療問題研究会は、患者の権利法をつくる会等約20の団体と協力し、下記の要領で医療基本法制定を求めるシンポジウムを企画しています。
   日時 10月31日(土)14時?17時
   場所 愛知県産業労働センター9階大会議室902
   詳しくはこちらをご参照ください。
    http://sites.google.com/site/kenri25/
 みなさんも是非、医療基本法制定に向けての議論に参加してください。

 (小林洋二)
posted by 管理人 at 14:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 意見・提言等

2009年09月19日

診療関連死の死因究明制度についての意見書

 これも少し古いのですが、当弁護団が出した、「診療関連死の死因究明制度についての意見書」を掲載しておきます。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

            意 見 書

                        平成19年4月20日

厚生労働省医政局総務課医療安全推進室  御中


 意見の要旨

1 診療関連死の臨床経過や死因究明を評価・分析する組織を設立し、医療機関に対し右組織への診療関連死届出を義務付けるべきです。
2 診療関連死の評価・分析結果は、医療機関及び遺族に報告されるとともに、個人情報を削除した形で公表される制度とすべきです。
3 医療機関から届出がない場合でも、遺族から診療関連死として評価・分析の申し出があれば、原則として評価・分析の対象とする制度とすべきです。

 意見の理由

1 診療関連死の死因究明制度及び専門機関の必要性
 現在、診療関連死の死因の調査や臨床経過の評価・分析等については、制度的に位置づけられておらず、専門的な機関も存在しません。その結果、診療関連死に不信を抱く遺族は、その死因の調査や臨床経過の評価・分析を民事手続や刑事手続に期待せざるを得ない状況になっていることは、貴省「診療行為に関連した死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」(以下、単に「方向性」と表記します)指摘のとおりです。刑事手続は刑事罰を科するか否か、民事手続は損害賠償請求権の存否を判断する目的に向けての手続であり、あくまでもその結論を出すのに必要な範囲での死因究明、臨床経過の評価が行われるに過ぎません。そのため、遺族のこれらの手続に対する期待は往々にして裏切られ、かえって医療不信を深める結果になることも珍しくありません。このような観点からすれば、診療関連死の死因調査及び診療経過の評価・分析等を行う制度及び専門的機関(以下、この専門的機関を、「方針」に倣って「調査組織」と表記し、調査組織が診療関連死の死因調査及び診療経過の評価・分析等を行う制度を「調査制度」と表記します)を設けることは、医療に対する社会的信頼の確保のため非常に重要です。
 また、このような調査制度は、同種事案の再発防止のためにも不可欠です。現在実施されている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」においては、わずか12件の評価概要書が公表されているだけですが、それでも再発防止に向けての貴重な提言がなされつつあります。例えば、事例2は精神病院における抗精神薬服用中の突然死ですが、評価結果概要書は「本症例に使用された抗精神病薬は広く受け入れられている投与量の範囲内であり、推測された不整脈死の原因を明確に特定することはできなかった」としつつも、このような事案が決して少なくないと思われることを指摘し、「今回の症例のように、原因が明確に特定できない症例についても、同様の症例の情報の共有、集積が行われることで、今後の原因究明がより進むことが期待される」と指摘しています。これは様々な分野の診療関連死に共通することであり、その原因究明を通じて、いわゆる「医療過誤」や「医療事故」の再発防止は勿論、これまで防ぎ得ないものと考えられてきた合併症の予防策にもつながっていく可能性があり、医療の安全性を大きく向上させることになるはずです。

2 診療関連死の定義・範囲
 調査の対象となるべき「診療関連死」をどう定めるかについては、様々な議論のあり得るところですが、当面、日本法医学会の異状死届出義務(医師法21条)に関するガイドラインの「診療行為に関連した予期しない死亡、及びその疑いがあるもの」に準拠するのが相当と考えます。
 具体的には、以下の@〜Bのいずれかに該当する死亡であり、いずれも診療行為の過誤や過失の有無を問いません。
 @ 注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡。
 A 診療行為自体が関与している可能性のある死亡。
 B 診療行為中または比較的直後の急死で、死因が不明の場合。
 例えば、ある一定の確率で死亡の危険を伴う手術において、術中あるいは術直後に死亡した場合、「予期しない死亡」ではないとして「診療関連死」の範囲から外してしまうことはできません。このような場合、AあるいはBに該当し、「診療関連死」として調査の対象となると考えるべきです。

3 医療機関に対する届出の義務付け?医師法21条との関係
 医療機関には、当該医療機関内あるいは当該医療機関通院中の診療関連死に関し、調査組織への届出を義務付けるべきです。また、東京女子医大事件、都立広尾病院事件などに象徴される医療事故の隠蔽体質に鑑みれば、上記報告義務を、罰則によって担保することは、報告義務を形骸化させないために必要不可欠と言えます。
 この点について、医師法21条の異状死届出義務との関係が問題になりますが、@診療関連死に関する調査組織への届出を義務付けること、A調査組織による評価・分析結果が、遺族に報告されること、B調査組織は医療機関から届出がない場合でも、遺族から診療関連死として評価・分析の申し出があれば、原則として評価・分析の対象とすること、といった制度を創設することにより、診療関連死を異状死届出義務の対象外とすることが望ましいと考えます。
 異状死届出はいわゆる捜査の端緒となるものですが、刑事罰は基本的には個人の人格責任に対するものであり、刑事事件の捜査の目的もそこにあります。一方、診療関連死は、多くの場合、多数の医療提供者が関わる中で生ずるものです。そういった診療関連死の解明において、個人の人格責任を問うことを目的とする刑事事件の捜査手法は、必ずしも有効とは思われません。診療関連死に対しては、まず死因究明や臨床経過の評価・分析という観点から調査を行うべきであると考えます。
 もちろん、これは診療関連死を刑事処罰の対象外とすることを意味しません。調査組織による死因究明及び臨床経過の評価・分析の結果、ある医療提供者の刑事処罰に値するような責任が明らかになる場合もあると思われます。そのような場合、刑事権力の適切な発動が望まれますが、これについては、評価・分析の報告を受けた遺族の告訴を捜査の端緒とすれば足りると考えます。
 但し、これは医療機関が、調査組織に対する診療関連死届出義務を誠実に履行することを前提としています。例えば、医療機関が、「診療関連死」の範囲に関する独自の解釈を主張して届出を行わなかった場合、結果的には診療関連死の隠蔽となり、適切な死因究明や診療経過の評価・分析が行われず、場合によっては刑事処罰を受けるべきところを免れるといった事態も生じてしまいます。
 このような事態を避けるためには、調査組織は、医療機関から届出がない場合でも、遺族から診療関連死として評価・分析の申し出があれば、原則として評価・分析の対象とする制度とすることが必要です。調査組織において、明らかに診療関連死ではないと判断できるような事案であれば、例外的に調査対象から外していいと思われます。

4 調査結果の取扱いについて
 医療不信の解消は、調査組織及び調査制度を設ける目的の一つです。この観点からするならば、調査結果が、医療機関のみならず遺族に報告されるべきことは当然と言えます。
 また、調査組織による臨床経過の評価・分析等は専ら再発防止の観点からなされるべきであり、調査組織が医療提供者側の法的責任の有無を判断すべきではありません。法的責任追及は、あくまでも遺族による民事損害賠償の請求、あるいは遺族からの刑事告訴を捜査の端緒とする刑事捜査という形で行われるべきであり、そのためにも、調査結果は遺族に報告されるべきです。
 また、医療事故再発防止策の策定等安全な医療の構築も、調査組織及び調査制度を設ける目的の一つです。この観点から、調査結果は、個人情報を削除した形で公表されるべきです。

posted by 管理人 at 20:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 死因究明制度

弁護士報酬敗訴者負担制度反対の意見書

 少し古いのですが、当弁護団が以前に出した「弁護士報酬敗訴者負担制度反対の意見書」を掲載しておきます。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

            意 見 書

                           2003年8月29日

司法制度改革推進改革本部  御中



 当研究会は、現在、九州・山口の弁護士202名・医療関係者24名(合計226名)から構成されています。1980年の結成以来、医療における人権の確保と医療制度の改善を目的とした活動を続けてきました。医療事故相談・医療過誤訴訟といった医療被害の救済活動はその中心の一つです。
 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関しては、貴本部に対し、既に2002年9月30日付で「弁護士報酬敗訴者負担制度反対の意見書」を提出しているところではありますが、今回の意見募集に応じ、改めて意見を述べる次第です。


 意見の要旨

 九州・山口医療問題研究会は、国民の司法に対するアクセスを阻害する弁護士報酬敗訴者負担制度の導入に反対します。
 特に、医療過誤訴訟に関して弁護士報酬敗訴者負担制度を導入した場合、医療被害者の多くが提訴を断念する結果となることは明らかです。このような制度は絶対に導入すべきではありません。

 意見の理由

1 弁護士報酬敗訴者負担制度導入の是非に関する視点
 弁護士報酬敗訴者負担制度に関し、司法制度改革審議会の中間報告(2000年11月)は、「弁護士報酬の敗訴者負担制度は、弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくするものであることなどから、基本的に導入する方向で考えるべきである」との原則導入論を打ち出しました。即ち、弁護士費用敗訴者負担制度が存在しないことが、国民の司法へのアクセスを阻害しているという認識を前提として、それを除去するために、この制度を原則的に導入すべきだという考え方です。
 ところが、市民団体・各地弁護士会から、この認識に対して厳しい批判が寄せられたせいか、司法アクセス検討会では、「敗訴者負担制度導入の根拠は、訴訟で勝った者が権利を実現するために生じた費用を負けた者から回収できるようにするという、フェアーな原則で当たり前のこと」、「司法へのアクセスの促進が唯一の判断規準だというのが日本弁護士連合会の意見だが、公平・公正という視点は何ものにも勝る判断規準ではないか」といった意見が、導入積極論の根拠として展開されているように思われます。
 しかし、このような議論は、社会的紛争の実態を全く無視したものです。
 そもそも、紛争が発生するにはそれなりの事情があり、当事者双方に言い分があるのが一般です。敗訴当事者が、勝訴当事者が訴訟に費やした弁護士費用等まで負担すべきか否かについては、東京地裁平成13年7月6日判決、東京高裁判決平成12年10月25日、札幌地裁昭和59年9月29日判決等、いくつかの裁判例がありますが、その結論は様々であることからも容易に理解できるとおり、「訴訟で勝った者が権利を実現するために生じた費用を負けた者から回収できる」のが全ての場合に公平・公正であるとは言えないのです。
 個々の具体的事案に即してどのような結論が公平・公正であるかを最終的に判断するのが裁判所の役割です。そして、どうすればその裁判所が利用し易くなるのかというのが、この議論の出発点だったはずです。その出発点を離れて、「弁護士報酬敗訴者負担制度こそ公平・公正」といった論拠を持ち出すのは、議論として本末転倒であり、論点のすり替えに他なりません。
 弁護士報酬敗訴者負担制度導入の是非は、あくまでも司法へのアクセスの促進という視点から議論されるべきものです。

2 弁護士報酬敗訴者負担制度が国民の司法へのアクセスに与える影響
 前述のとおり、弁護士費用敗訴者負担制度の原則導入論を打ち出した司法制度改革審議会の中間報告には、市民団体、各地弁護士会から厳しい批判が寄せられ、2001年6月の最終意見は、中間意見の原則導入論から、「一律に導入すべきではない」との見解に改められました。
 しかし、弁護士費用敗訴者負担制度の不存在が、司法へのアクセスを阻害しているとの認識自体は維持されているように思われますし、ここまでの司法アクセス検討会の議論でも、このような認識に立った発言が見られます。
 このような認識は全くの誤りです。これがどれほどひどい誤りであるかは、既に多くの市民団体及び弁護士会の意見によって指摘されているところですが、私たちも重ねてこの点を強調いたします。
 一般に、ある法的紛争について訴訟提起という手段を選択するにあたって、当事者にとっての最も重要な検討課題は、勝訴の見込みがあるかどうかという問題であり、得た勝訴判決を実現できるかどうか(回収可能性)という問題です。勝訴の結論を得るために、弁護士費用を含めてどれほどの費用がかかるのか、また、どれほどの時間がかかるのかといった問題がこれに次ぎます。
 弁護士報酬敗訴者負担制度の存否、即ち、自分が負担した弁護士費用を相手方から回収できるか否かという問題は、勝訴判決及びその実現がほぼ確実に予測しうる場合のみに検討に値することです。そして勝訴判決及びその実現がほぼ確実に予測される場合において、弁護士費用を相手方から回収できないことが提訴回避の理由になるとすれば、それは請求額が弁護士費用に充たないような少額事件の場合のみでしょう。それ以外の場合、弁護士費用を相手方から回収できなくても、「提訴しない方がまし」ということにはなり得ません。経済的に言えば、それが合理的な判断です。
 しかし、実際には、紛争が発生するにはそれなりの事情があり、当事者双方に言い分があるのが一般です。少なくとも、弁護士が相談を受け、代理人として提訴する民事訴訟において、提訴前から勝訴判決を確実に予測し得る事案は、むしろ例外です。当事者は、勝訴の見込みが不確実な状態で、弁護士に着手金を支払って提訴するか否かを選択せねばならないのが普通であり、「弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者」のほとんどは、この勝訴の見込みの不確実さに後込みした当事者なのです。
 弁護士報酬敗訴者負担制度は、このように勝訴の見込みが不確実な場合にどのような影響を与えるでしょうか。現在の制度の下において、勝訴の見込みが不確実な訴訟提起は、自分が依頼した弁護士に対する着手金が無駄になるというリスクを負うことを意味しています。しかし弁護士報酬敗訴者負担制度の下では、現状のリスクに加え、相手方の弁護士費用をも負担せねばならないリスクを負うことになります。
 即ち、司法を利用することのリスクは、弁護士報酬敗訴者負担制度の導入で、確実に高まります。リスクの低い制度と、高い制度と、どちらが利用しやすいか、健全な理性にとって結論は明らかでしょう。
 即ち、弁護士報酬敗訴者負担制度の不存在が、司法へのアクセスの阻害要因として機能するのは、勝訴が確実に予測され、かつ訴額が極めて少額の場合のみであり、それ以外の一般的な場合には、むしろこの制度こそが司法へのアクセスを阻害する要因となるのです。

3 医療過誤訴訟に対する影響
 厚労省は全国82の特定機能病院に医療事故の院内報告制度を義務づけていますが、この制度が創設された2000年4月から2002年2月までの22ヶ月間で、報告された事故は約1万5000件、そのうち患者に死亡・後遺症などの重篤な被害が発生した事故は387件とされています。
 日本の病院及び有床診療所を併せると約180万床のベッドがあり、そのうちこの特定機能病院は約7万床を占めるに過ぎません。このような割合から計算すると、患者に重篤な被害が発生した医療事故だけでも、年間5000件を軽く超えることになります。
 これは実際に報告された数字からの推計であって、報告されずに隠蔽された事案を含めるとさらに大きな数字になることは容易に想像できます。ニューヨーク州における医療事故調査(ハーバードスタディ)の結果から、日本の医療過誤による死亡者は年間3万人に及ぶとの推計もあります。
 これに対して、日本における医療過誤訴訟は、若干の増加傾向にあるとはいえ、現在でも年間800件程度に留まっています。圧倒的に多数の医療被害者は、訴訟による紛争解決という手段を選択していません。
 その最も大きな原因は、患者が医療過誤訴訟に勝訴することが困難であるからです。
 医療過誤訴訟には、診療行為が密室で行われる(密室性の壁)、被告の専門領域で戦わざるを得ない(専門性の壁)、医療界に相互批判を許さない体質がある(封建制の壁)という3つの壁があると言われており、この壁が患者側の勝訴を困難にしていると指摘されています。現実に、民事訴訟一般の原告勝訴率が約86%であるのに対し、医療過誤訴訟の原告(患者側)勝訴率は約28%に過ぎません。
 このような医療過誤訴訟の困難さから、多くの医療被害者は、訴訟提起を検討する以前に諦めているのが現状です。年間800件という提訴件数はその現れなのです。そして訴訟提起を望む医療被害者も、提訴にあたって、「勝訴判決を得ることができるかどうか」という問題に真剣に悩まなければなりません。提訴前に把握した情報では勝訴が予測されても、医療側から思いがけない反論が提出されて敗訴する可能性は常に存在し、しかも無視できないほどに大きいのです。
 したがって、医療被害者が提訴に踏み切る場合、敗訴した場合の不利益がどれほどのものであるかは非常に大きな問題になります。前述のとおり、現行制度では、弁護士に支払う着手金が無駄になるというのが敗訴の場合の不利益です。弁護士との間で、訴訟の見通しに関する話し合いや着手金額の交渉を重ねた上、その不利益を覚悟して提訴しているのが現在の医療過誤訴訟の原告です。不利益を怖れて提訴を断念するか、不利益を覚悟で提訴に踏み切るかは、多くの場合、ぎりぎりの決断になります。
 そして、医療における患者の権利は、不利益を覚悟で提訴に踏み切った、勇気ある医療被害者によって切り開かれてきました。例えば、今日においては常識的となったインフォームド・コンセントの理念も、幾多の敗訴判決を克服して認められるに至ったものです。今日、医療事故防止対策の必要性が叫ばれ、その取り組みが始まりつつあるのも、医療被害者の闘いあればこそなのです。
 しかし、弁護士報酬敗訴者負担制度の許では、敗訴の場合の不利益として相手方弁護士費用の負担が加わります。ただでさえぎりぎりの決断を迫られる医療被害者にとって、この不利益のリスクは極めて重大なものにならざるを得ません。医療過誤訴訟の原告勝訴率が約28%ですから、少なくとも残り約72%の医療被害者は、自分の負担した弁護士費用を回収できないばかりか、相手方医療機関の負担した弁護士費用の支払義務を負うことになるのです。
 このようなリスクを負担して医療過誤訴訟の提訴に踏み切れる医療被害者は稀と言わざるを得ません。多くの医療被害者は、弁護士報酬敗訴者負担制度導入によって提訴断念に追い込まれることになるでしょう。そして医療側は、患者側の提訴断念を期待して、訴訟前の和解による解決にも消極的になるでしょう。医療事故に対する責任追及の機会が激減することは、医療事故防止対策の軽視にも繋がることが予測されます。

4 弁護士報酬敗訴者負担制度問題の本質
 弁護士報酬敗訴者負担制度の原則的導入を唱えた前記中間報告に対し、大企業820社の法務担当者を構成員とする経営法友会は「濫訴の歯止めとして有効であり支持したい」、「(多様な紛争解決のメニューを揃えた上で)それでも裁判という形で権利の実現を図ろうとするならば、敗訴側が弁護士費用を含めて訴訟費用を負担するのが合理的である」との見解を発表しました。
 この見解は、弁護士報酬敗訴者負担制度の本質を、極めて明瞭に示しています。
 第一に、この経営法友会の見解は、弁護士報酬敗訴者負担制度が、決して国民の司法へのアクセスを促進する方向で機能するのではなく、「濫訴防止」という形で、即ちアクセスを阻害する方向で機能するものと理解しています。これが当然の理解であって、司法制度改革審議会の報告書に見られるような、弁護士報酬敗訴者負担制度制度が国民の司法へのアクセスを促進するかの如き言説は、何らかの勘違いか、あるいは本来の目的を隠すための、「ためにする議論」なのです。
 第二に、この見解は、弁護士報酬敗訴者負担制度導入論を支持しているのは、司法権を積極的に活用しようと考える側、即ち国民の裁判を受ける権利を充実させようと考える側ではなく、司法による規制を可能な限り回避したいと考える側であることを端的に示しています。つまり、結果的に勝訴できない訴訟を「濫訴」と位置付け、弁護士費用負担という不利益を負わせることにより、勝訴の見込みが不確実な訴訟提起を諦めさせようというのが、経営法友会等に代表される弁護士報酬敗訴者負担制度導入論支持者の狙いなのです。
 このような考え方が、日本国憲法32条の保障する「裁判を受ける権利」の趣旨に反すること、司法改革の目指す「国民が利用しやすい司法の実現」という理念に反すること、いずれも明らかではないでしょうか。
 勝訴の見込みが不確実な紛争において、当事者間に主張・立証を尽くさせた上で、法的判断を下すのが司法本来の役割であり、その判断を求める権利こそ「裁判を受ける権利」です。勝訴の見込みが不確実な事案について裁判を起こしにくくなることは、司法権からみれば機能の縮小であり、国民から見れば「裁判を受ける権利」の後退に他なりません。
 貴本部が、賢明かつ当然の判断を行い、弁護士報酬敗訴者負担制度導入の議論に終止符を打つことを願って止みません。

posted by 管理人 at 20:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 意見・提言等

九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団ブログ

 はじめまして。

 私たち九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団は、医療過誤事件について、患者側の代理人弁護士として活動している弁護団です。ご相談方法等については、以下をご参照下さい。

  http://www.f-iryouken.org/

 弁護団では、医療過誤事件の取り組むだけでなく、よりよい医療を目指し、イベントを開催したり、研究活動を行ったりしています。このブログでは、そんな弁護団の活動を紹介し、その他医療問題に関する情報をお届けしたいと思います。
posted by 管理人 at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | その他