2011年02月13日

医事用語のいろは7

{ト}頭部外傷後遺症

 一時性脳損傷に引き続き、直接的、間接的に生じた続発性と慢性期に見られるものとがある。慢性期にみられるものでは、自律神経−血管運動神経症状をもとにさまざまな自覚症状、神経症状が見られる。


 およそ10年前の交通事件。脳挫傷、頭蓋骨骨折、前頭洞骨折、頭蓋底骨折などの傷害を負った依頼人がきた。救急治療が功を奏し救命。後遺症もほとんどなさそうに、明るく笑いながら。


 事故直後意識はどうでしたか。 
 2〜3日失っていたのではないでしょうか。

 あなた自身の記憶ですか。
 いいえ僕は1ヶ月後くらいに気がつきました。2〜3日後頃に一旦目を覚ましはしたそうです。

 後遺症についてはどうですか。
 嗅覚の脱出と難聴というか耳鳴りです。

 そのほかにはどうですか。例えば、てんかんなんかは。
 脳外科では心配は要らないと言われました。

 あなた自身はどうですか。
 うーん、耳鳴りですね。それと少しボーとすることがあります。

 生き辛さはどうですか。
 職場に戻ってとてもきつい感じがします。

 もう一度きちんと脳の検査をしたほうが良いですね。


 大学病院、総合病院の脳外科を再受診。その結果、とくに問題はない。心配しないで前向きに生きていった方が良い。

 仕方なく提訴。

 彼はさらに生き辛さをましてくる。仕事上の間違いが多くなる。集中力持続しない、感情が変わりやすい、なんか事故以前の自分とは違う。
 CT,MRIなどの検査技術を持つ精神科への受診。そして医師との面談。


 どうですかね。
 深刻やね。

 なんがですか。
 前頭葉中心部が2センチ四方に欠損して、脱落しとる。まあ、脳が水になっとる。

 それはどげえなるですか。
 深刻たい。


 前頭葉症状群、前頭葉の損傷によって、最も高等な精神総合能力の障害をきたし、その脳神経症状は多岐にわたる。IQなどの一般的な知能の低下は生じないとされるが、注意障害、記憶障害、行動障害がいずれも特徴的に見られ、長い転機をたどり、人格の変化・荒廃までに至ることもあるとされる。


 人間らしい複雑な行動の計画および実行が無理。柔軟に対応できんし、普通なら簡単に無視できることが無視できん。

 なんですか。それは。
 つまりね、電話かけよって、後ろで小さくテレビの音がなったらもう話ができんごとなる。大きい音で聞こえんとじゃないぜ。それと、ちょっと前のことばもう忘れる。全部メモせないかん。また覚えたいくつかのことを意味のあるごと整理することができん。

 はあー。
 一番いかんとは、行動の制御、抑制、選択ができんごとなる。まーだこれから先の話しやけど。どこにめし食いに行くから、決めるとに3時間かかったり、目の前に荷物ばおかれたら使わなんごたる気分になる。自分らしく判断も行動もできんごとなり、20年30年かかって意欲を欠き衝動的で粗暴になったりする。

 そりゃ大事ですばい。はよ本人に言うて裁判所に診断書ばださな。
 告知はようしきらん。20、30年たったらあんたの人格はのうなるやら言いきらん。


 医師を説得し、意見書を書いてもらい、本人と相談して詳しい告知は裁判所の証言台から。

 満額の勝訴判決。彼は明るく笑いながら、「これからですね」。
 今はやりの高次脳機能障害。当時は多くの医師が告知を避けた。癌よりも統合失調症よりも言い出せないと。患者は知らされないまま生き辛さを深めていく。

 この10年で変わったかな。

{一口メモ}頭部外傷、物忘れ、反応遅れは、要注意。

(八尋光秀)
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2011年01月04日

医事用語のいろは6

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 ・・・・と言っていますが、前回更新が8月・・・。あまりにサボりすぎましたね・・・。今年はもう少しマメに更新していきたいと思います。


{へ}変形性膝関節症

 関節の退行性病変。多くは中年以降に起こる。関節体の形体が変化して、初期には関節の運動痛、荷重痛があり、関節可動性が減少してゆく。関節は拘縮位をとり、しばしば著名な摩擦音、軋轢音を認める。X線像は特有の関節縁の尖鋭化、骨棘形成、関節裂隙の狭小などが見られる、とされる。

 こんな事件があった。

 相談者は70代を前にした女性。いかにも争いごとは嫌い。おとなしく、静かな人柄。人生のまとめの時期を向かえ、それを自覚しつつ、堅実な生活を望まれている風。この症状で、近くの整形外科に通い、貼り薬、マッサージ温浴療法などを続けてきた。先代から付き合いのある医院。引き継いだ若先生も信頼していた。自分の子と同じ世代の若先生お勧めのステロイド剤の関節内注入療法を受けた。膝の積年の痛みと不自由さからの解放を願いつつ。
 注射して2ないし3時間後から、強い痛みと、腫れが持続。翌日、不調を訴えるも取り合ってくれない。結局、膝関節を切開し洗浄して感染を止めた。この間の感染時に関節内軟骨などを損傷して後遺。

 「裁判はしたくありません。ただ、反省させて、同じような間違いを起こさせないようにしたいと思います。」
 「彼(若先生のこと)はなんと言っていますか。非を認めていますか。」
 「いいえ。年間に1000例くらい注射していますが、このようなことはこれまで一度もありませんでした。残念ですが原因はわかりません、と言っています。」
 「あなたはどう思いますか。彼のその言い分をお聞きになられて」
 「注射のときにはばい菌が入ったに決まっています。そんな当たり前のことなのに子供の言い訳です。わかりきったことを、わからない振りをして、通そうとする 態度が許せません。」

 証拠保全を行い、内容証明による示談交渉を開始。はじめ責任を否定していたが、当方は、注射部位、あるいは注射針の消毒不全などとの選択的過失を主張し、それ以上に感染経路の特定は要らないとする最高裁判例に準拠した。
 相手方が有責を認め、謝罪し、再発防止を約束して和解解決。

{類似語}慢性関節リウマチ
 20才から60才の女性に好発し、小関節より漸次大関節を対称的に侵す。
 関節変化が高度になると特異な変形を呈す。強直、脱臼をきたし、筋肉、皮膚、爪にも障害を認める点で異なる。

{一口メモ}注射感染、原因不明は自白と同じ。

(八尋光秀)
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2010年08月15日

医療ゼミナールに参加しました!!

※当弁護団では、定期的に医師をお招きして勉強会を開催しています。その感想を、新人弁護士が書いてくれました。


 2010年8月4日、第9回医療ゼミナールに参加しました。

 今回のテーマは「小児科」で、小児科医として長年ご活躍されている小児科医のお話を聞くことができました。

 まず、小児科の特徴として、守備範囲の広範性、専門性についてのお話しがありました。
 大人であれば自分の症状に応じて、内科や消化器科などを選んで受診しますが、「小児科」には、いろんな症状、疾患をもつ子どもたちが集まってきますので、小児科医には、内科医以上の広い知識と基礎力が必要とされるそうです。

 一方、「子どもは大人のミニチュアではない」ため、大人とは違う小児の特徴を意識した小児医療についての専門的な知識が要求されるとのことでした。
 たとえば、子どもの水分量の多さ、体全体に占める頭部の割合の大きさは、ぷくぷくした赤ちゃんのほっぺたやバランスのとれない歩き方を想像すれば一目瞭然ですが、だから脱水症状を起こしやすかったり、頭部からの出血が重症化しやすいことなどを常に意識して診察・治療に望まなければならないそうです。私たちが日常生活の中で子どもと接するときにも、子どもの特徴について知っていると大変有益ですので、いいお話しを聞くことができたと思います。

 さらに、小児科医には、その子どもの置かれた家庭環境、社会的な背景も含めて、新生児期から中学校卒業程度までの幅広い年代の子どもを総合的に診ることが必要とされるとのお話を聞きました。小児科医の大変さを思い知らされると同時に、弁護士も、依頼者の訴えをただ受け止めるだけでなく、その方の背景事情や性別や年齢も考慮して受け止めなければならないと思いました。

 次に、小児医療に際して必要とされる技術につき、具体的にご説明がありました。日々子どもを見ている親の直感が非常に大事であること、家族との信頼関係を築くことの大切さ、子どもの治療(特に侵襲性のある治療)に際しては、その子どもの年齢、発達状況に応じ、分かりやすい言葉で説明をすることの必要性、診察室に入ってきた瞬間から、子どもの様子を観察することが大事であることなど、日々子どもと接している医師ならではの非常に具体的で力のこもったお言葉に感じました。

 そして、1人で診察して、知識不足や経験不足から、間違った思い込みをしてしまい、修正がきかないまま進んでいくことの危険性を話されました。
 弁護士の世界でも、「1人で悩むな。1人で考えるな。誰かに話せ。」ということをよく言われますので、身につまされる思いで拝聴しました。

 今回は、小児科のことについて非常に有意義なお話しをお聞きすると共に、医師と弁護士に共通して求められる点に気づかされ、あらためて、日々の業務を振り返る(特に、知識不足というところは反省)いい機会となりました。

(新人弁護士)
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2010年07月09日

九州・山口医療問題研究会30周年シンポジウム報告

 去る7月3日(土)、福岡国際会議場において『九州・山口医療問題研究会30周年シンポジウム〜医療ADRを考える〜』が開催されました。


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1.医療ADRとは?

 医療事故紛争に関わる方々の中でも、必ずしもなじみのない医療ADRという存在について、私の備忘をかねて記載しておきます。

 医療ADRとは、その名のとおりADR(Alternative Dispute Resolution)(裁判によらない紛争解決)の医療事故紛争版です。

 3人の仲裁人(裁判官経験等のある弁護士・患者側代理人の経験豊富な弁護士・医療側代理人の経験豊富な弁護士)の下で、当事者間の対話により、医療事故紛争をスピーディーかつ柔軟に解決しようとするもので、福岡においても平成21年10月1日に開設されました。

 医療事故訴訟の抱える、@とかく複雑で長期化しやすい、A損害賠償請求権の有無が審判対象となり真相究明や謝罪を求める当事者の意思に必ずしも合致しない、B両当事者対立構造の下、医療側と患者側の信頼関係が決定的に破壊される、といった問題を打開するものとして期待されていましたが、蓋を開けてみると、昨年度22件の申立てのうち、半数以上がそもそも相手方が出席しない「不応諾」で終了しており、和解に至ったものはわずか2件で、有効に活用されているとはとてもいえない状況です。
 そこで、現状の問題点を認識し、その解決に向けた道筋を考えるため、今回のシンポジウムが開催されました。


2.シンポジウムについて

(1)基調報告

 まず、基調報告として、東京三弁護士会が開設する医療ADRにおいて仲裁・あっせん人を務める安東宏三弁護士より、東京における医療ADRの現状が報告されました。

東京では、2007年9月の発足から2009年4月までの間に、72件の申立てがなされていますが、そのうち45件が応諾され、その32.8%にあたる19件について和解が成立しています。

 東京の医療ADR成功の背景には、医療側仲裁人及び医療側代理人の存在があり、彼らが医療ADRは医療事故紛争の解決のために有用であるとの認識を共有していることが、医療機関を手続に参加させる動力になっているとのことでした。

(2)パネルディスカッション

 続いて、医療研の久保井摂弁護士をコーディネーターとして、安東弁護士、福岡で医療ADR主任仲裁人を務める簑田孝行弁護士、福岡県医師会常任理事の大木實医師、そして医療ADRを用いて和解に至った利用経験者の方によるパネルディスカッションが行われました。

 簑田弁護士は、「説明の場なら医師会の医事調停がある」ということで不応諾となってしまった経験があること、医師会との事前の意思疎通不足を感じしたことなどを語られました。

 大木医師からは、現在の医療ADRの問題点として、@診療時間帯である平日昼間に医療施設から離れた場所に出向くのは個人開業医には負担が大きいこと、A医師会が作り上げてきた医事調停手続との齟齬、B既に十分な説明を行ったにもかかわらず納得がいかないとして再度の説明を求められることの負担などがあり、何より、医師は弁護士に対して一種トラウマがあり、弁護士のみで構成される手続に乗れば、患者に対する救済ありきの偏った判断がなされるのではないかというおそれを抱いていることなどが指摘されました。 

 医療ADR利用経験者の方からは、患者は必ずしも訴訟などという大げさなことは考えておらず、医師に患者に向き合って対応して欲しいと思っていること、自分が受けた医療について不信と不満があったが、医師に説明を求めているうちに自分がクレーマーなのではないかという思いに駆られたこと、医療ADRという手続に乗ったことで、「医療」というフィールドの中でなく、「社会」という広いフィールドの中で問題が認識され、自身の主張がおかしいわけではないということが確認され安心した経験などが語られました。


3.シンポジウムに参加して

 今回、医療ADR側(弁護士側)、医療側、患者側の三者がディスカッションを行ったことは、非常に有意義であったと感じました。
 弁護士側は、医師会の医事調停について、医師会内部で行われるもので中立性・透明性に問題があると考えていましたが、医療側から見れば、医療ADRも弁護士会が作ったよく分からない制度なのであって、医療事故紛争解決に役立つ中立な手続であるという認識を共有しないままに、負担をおして参加するよう求めたのでは不応諾も無理もないと思いました。

 他方で、医療側も、医療ADR利用経験者の方のお話を聞くことで、医事調停における説明も医療事故被害者にとってみれば「医療」というフィールドからの説明でしかなく、一定の限界があるということを認識されたのではないかと思います。

 以上のように、改善に向けての問題点が認識されたわけですが、医療ADR利用経験者の方からは、今後、制度の構築・運営に力点が置かれ、実際の対話の努力がおろそかになることへの危惧も示されていました。

 医療ADRの活性化に向けて、やらなければならないことは数多くありますが、それらにかまけるあまり最も大事なことをおろそかにしては元も子もありません。大木医師がパネルディスカッションの中で、「患者にとっては一生に一度のことが、自分達にとってはいつものことで、そこで感覚が摩耗してしまうことが一番怖い」という内容のお話をされていましたが、これは医療に限った話ではないと思います。医療ADRも、当事者にとって一生に一度の問題である医療事故紛争について、機械的に処理するのではなく、当事者と共に考え、より良い解決に導いていく制度であるべきことを忘れないようにしなければならないと思いました。

 それを忘れそうになったとき、この日のことを思い返そうと思います。

(管理人)
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2010年06月23日

九州・山口医療問題研究会30周年記念シンポジウム 『医療ADRを考える』 開催のご案内

 九州・山口医療問題研究会は、医療事故被害の救済と再発防止、医療における人権の確保と医療制度の改善を目的として活動を続けてきて、本年をもって結成30年を迎えることとなりました。

 そこで、結成30周年を記念し、標記シンポジウムを開催致します。


 これまで、医療紛争の解決は、主として民事裁判に委ねられてきました。
 しかし、民事裁判は、患者側と医療側に深刻な対立を生み、必ずしも当事者の思いに沿った柔軟な解決ができず、解決までに費用や時間がかかってしまう現状があります。

 そこで、早期の柔軟な紛争解決を目指して、対話型の紛争解決手段である医療ADR(裁判外の話し合いによる紛争解決システム)が創設されました。
 この医療ADRは、患者側と医療側との信頼関係を維持しつつ紛争を解決できる有効な手段として期待されるものですが、その認知度は高くなく、また使いやすい制度にするためにはクリアすべき課題が数多く存在します。

 本シンポジウムでは、このような医療ADRの活性化を図るため、現状の問題点とその解決に向けた道筋について、患者、医師、代理人弁護士及び医療ADR仲裁人の方々が熱い議論を交わします。


 当研究会は、医療をとりまく環境の改善を願う全ての方々のご協力のもと、現在まで活動を継続していくことができました。
 その節目となる本シンポジウムには、是非多くの方々のご参加をいただきたいと考えております。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

日 時  2010年7月3日(土) 午後2時より
場 所  福岡国際会議場(福岡県福岡市博多区石城町2番1号)
参加費  無料
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2010年05月22日

医事用語のいろは 5


{ほ}ポリペクトミー(Polypectomy)


 ポリペクトミーとは、一般に、「高周波電流を用いて、ポリープの基部を焼しゃくし切断する手技」。消化管内部を内視鏡で眺めながら、ポリープを探し出して焼ききる。ほとんどのポリープを焼ききれるので、逆に切りすぎもあり得る。研修医に初めての経験としてさせることも。切り取ったポリープは組織検査に出して、癌かどうかや、その浸潤の有無を鑑別する。浸潤例には更に管切除をする。多発性の疾患の場合はなお定期的に観察して再発のないことの確認をしなければならない。合併症として出血と消化管穿孔が圧倒的に多い。

 こんな事件がある。

 ポリペクトミーによって穿孔を起こし、そのまま放置して腹膜炎を発症し、腸管切除術を余儀なくされた。
 ポリペクトミーのあとは痛みがある。患者は穿孔ゆえに痛みを感じ訴えるが、医療者は術後の痛みと思い込む。そのうちたまらなくなる。ちょうど夜間。鎮痛剤を与えて様子を見る。血圧、脈拍は異常がない。だが、その後の測定は怠る。
 朝になりショック状態。触診、画像、バイタルサインなどを確認し、循環ショックをメイロンで補正しながら緊急開腹手術。
 腹水の混濁、腹腔内の広汎な感染、ショックからの建て直しができず、死亡。

 多くは無理な切除や内視鏡操作の誤りが出血や穿孔をもたらす。ただ、ポリペクトミーの手技をいかに上手にしても、慎重のうえに慎重を重ねて内視鏡操作をしても、傷つけることはあるし、穿孔に気付かないこともある。術後の観察、とりわけ痛みが持続するときの、出血傾向の把握、あるいは穿孔を疑っての管理が死命を決する。

{一口メモ}ポリペクは終わった後に腹膜炎

(八尋光秀)
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2010年03月24日

死因究明制度についての意見書

 九州・山口医療問題研究会は、医療事故防止・患者安全推進学会と共同で、(社)日本内科学会モデル事業中央事務局に宛てて、以下のとおりの意見書を提出しました。

 現在、医療に関連する死亡について、死因を究明する制度を創設しようという動きがありますが(詳しくは2009年09月29日の記事「死因究明制度シンポ」をご覧下さい。)、それに先立ち、一定の事案について死因究明を行うモデル事業が実施されています。

 モデル事業で検討された症例は、事案の概要がHPで公開されており、九州・山口医療問題研究会において、その内容を検討するという調査研究を行いました。その調査研究を元にした提言が、以下の意見書です。

 モデル事業のHPから事案の概要等を見ることができますので、ぜひそれらを参照しながらお読み下さい。

モデル事業のHP

http://www.med-model.jp/



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社団法人日本内科学会モデル事業中央事務局  御中

診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業における
評価のありかたに関する意見

                    
医療事故防止・患者安全推進学会
代表理事  谷田 憲俊

九州・山口医療問題研究会
幹事長  安部 尚志


1 はじめに

 私たち医療事故防止・患者安全学会推進学会は、医療事故を減少させ、医療の質と安全性を高め、「患者の安全」を確保し、かつ推進していくために、医療事故の原因分析並びに再発防止策等について研究をすすめ、その成果を広く社会に情報提供するとともに患者安全をめざす医療従事者の研修・研鑽に寄与することを目的として、医療従事者を正会員として2006年10月に設立された学会であり、九州・山口医療問題研究会は、医療事故被害の救済と再発防止、医療における人権の確保と医療制度の改善を願う医師・弁護士・薬剤師、その他の関係者によって1981年に設立された研究会です。
 私たちは、医療事故による死亡の原因究明・再発防止制度のより早急かつより実効的な実現を求める立場から、その先行事業としての「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(以下、単に「モデル事業」と略記します)の評価結果報告書概要(以下、単に「報告書概要」と略記します)の検証を、共同して行ってきました。現在、公開されている68件の報告書概要のうち、これまでに37件の検証を終えた段階です。当該症例に関連する医療関係者と、医療事故紛争処理の経験を有する法律家の共同作業により、医療事故による死亡の原因究明・再発防止制度における評価のありかたに関し、一定の課題を浮かび上がらせることができたのではないかと考えています。
 検証の対象が、評価結果報告書そのものではなく、報告書概要であることの限界は当然にあります。しかし、モデル事業において一般に公開されているのが報告書概要である以上、モデル事業に対する社会的評価は、この報告書概要によらざるを得ないと私たちは考えます。


2 意見の概要

 前提として、医療行為に関連すると思われる死亡例につき解剖所見と専門的な調査分析によって問題点を洗い出し、再発防止策につなげていくという本事業の意義は高く評価されるべきものと考えます。実際に、報告書概要が公表されている症例の中には、本事業による解剖及び調査分析がなされなければ、死亡原因が不明なままになり、再発防止に繋がらないばかりか無用の紛争を引き起こしかねない事案も多々含まれています。
 以下の意見は、今後、この事業がさらに充実し、事故再発防止に有益なものになってほしいという願いを込めて申し述べるものであることをご理解下さい。

(1)基本的な情報の質・量について
 事案を適切に評価するための情報が絶対的に不足している報告書概要が多々みられます。解剖所見も含め、評価する上で必要な情報は必ず事実摘示するよう徹底すべきだと考えます。また、診療経過を時系列に沿ってわかりやすく表記するための一覧表のフォーマットを作成し、統一的に利用する等の工夫が有用と思われます。

(2)評価の方向性・相当性について
 医療行為としての適切性の評価と結果回避可能性の評価が混乱しているように思えるものや、検討過程を示さないまま適切であるとの結論のみ述べるもの等、評価の方向性・相当性が疑わしい報告書概要が散見されます。特に、診療行為の不適切が指摘されるべき場合に、敢えてその点を回避したり曖昧な記述に終始している報告書が目立ちます。このような報告書は、再発防止に役に立たないばかりか、当事者間の理解を妨げることになり、無用な紛争を惹起することにも繋がりかねません。
 中央事務局レベルで、このような評価でいいのか再検討すべきです。

(3)再発防止提言について
 再発防止提言として的を射ていないと思われる報告書概要が散見されます。中央事務局レベルで、このような再発防止提言でいいのか再検討すべきです。
 次項以下、それぞれ若干の具体例を指摘します


3 基本的な情報の質・量について

(1)診療経過の記載が少ないものが多い。診療経過が分からないと、第三者が読んでも事案の内容が分からず、再発防止には役立てられない。どこまで詳細なものを付けるかという判断はあろうが、公表資料には診療経過一覧表を付けるべきである。

(2)解剖所見は、死因と関係する部分については記載すべきである。
 解剖所見については、一見死因と関係ないと思われるものまでしているものもあれば、そもそも「解剖所見」という欄がなく、「評価」や「検討」において、死因を述べるところで必要な範囲内で引用しているだけというものもある。
 しかし、解剖の上死因を究明するというのは本制度の核心であり、少なくとも死因と関連する範囲においては、簡潔であっても解剖所見を記載すべきである。

(3)全体的に、医師自体の属性に関する情報が少ない。
 例えば事例1など、踏み込んで問題点を指摘している点は評価できるが、執刀医の経歴等の情報がほしいところである(一般論としては、過失を前提としないのだから、このような情報は不要という意見もあろうが、事案によってはそこに焦点が当たるものもあろう)。

(4)その他、3例具体例を挙げる。
 事例2:抗精神病薬による死亡が推測されているのに、薬剤名や投与量、血中濃度等、全く記載されていない。

 事例8:血管造影術中の動脈解離の事例なのに、血管造影の手技についての詳細の記載がない。

 事例11:対象病院に転院した際には既に脳症発生しており、その原因や結果回避可能性を検討するためには本来前医での詳細な経過が不可欠だが、それが明らかでないままの調査となっている(制度の限界とも思えるが)。

 その他にも、事例16、22、26、30、35、36、37、38、48、51、52、60、63などにおいて、必要な情報の不足が指摘された。


4 評価の方向性・相当性について

 3例具体例を挙げる。

 事例2:「使用された向精神薬は広く受け入れられている投与量の範囲内」とあるが、そもそも「広く受け入れられている投与量」とは何なのかはさておいても、腎機能の悪化など、通常投与量でも高血中濃度になることはある。本件ではなぜそうなったのかについての検討・評価が一切ない。

 事例4:グラム陽性球菌が認められたというだけで、レンサ球菌が分離されたわけでもなく、激症型溶血性レンサ球菌感染症かどうか不明。それを激症型溶血性レンサ球菌であるという前提で検討するのは合理的でない。

 事例17:「全容を解明することは困難だった」との結論になっているが、不適切な手技(行うべきではなかった手技)による事故であることは明らかではないか。そのことを端的に指摘すべき。

 その他、事例37、44、51、52などについて、評価の方向性・相当性の問題点が指摘された。


5 再発防止提言について

 3例具体例を挙げる。

 事例11:再発防止として激烈な脳症の病態解明が挙がっているが、遠すぎる。寧ろ週末における救急医療体制の整備の問題を中心に論ずべき事案ではないか。

 事例17:「特段の必要があってこれを行うときは、患者の循環呼吸動態 をモニター観察し病状変化に際して心肺蘇生を含む全身管理が迅速に行える態勢が必要である。また、将来の医学教育や教科書において当該手技の可否を論じることが望ましい」とされているが、端的に、このような手技を行うべきではないこと、及びその危険性を広く周知すること(医学教育や教科書といった迂遠な方法ではなく例えば医療事故収集等事業の「医療安全情報」のような形で)が根本的な再発防止策ではないか。

 事例22:回旋異常でない限り、キーラン鉗子を使用すること自体適応がないと言えそうだが、あえて使用した場合の指導体制の問題にしてしまっている。
 また、再発防止提言として「通常経過観察することが多い帽状腱膜下血腫であっても、急激な呼吸循環不全をたどる場合があることをNICU関係者に周知させることは重要である。」とあるが、それはNICU関係者であれば周知ではないか。知っている上で、何をすべきかが再発防止の提言になるのではないか。
 その他、事例26、43、44、52などについて、再発防止提言の問題点が指摘された。逆に、事例19、45、50などは、具体的に再発防止提言がなされているとして評価できた。


6 結語

 私たちは、モデル事業における評価のあり方には、上記のような問題点があると考えています。
 なお、上記に明らかなように、事案概要書における情報の不足が相当件数において見受けられます。これは、もともとの検討の際から情報が不足していたということもあるのかも知れませんが、おそらく、事案概要書を作成する際に必要な情報が落ちているのではないかと思います。プライバシーに配慮する必要はありますが、その点に十分配慮した上で、基本的には評価結果報告書そのものを公表すべきではないでしょうか。
 以上、今後のご検討に役立てていただきたく、意見を述べる次第です。
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2010年01月31日

医事用語のいろは 4

 ずいぶん更新の間が空いてしまいました。医事用語のいろは・その4です。

{に}妊娠中毒症(toxemia of pregnancy)

 妊娠が誘因とされる。母体の異常あるいは症状としてとらえるのが一般。母体の高血圧、蛋白尿、浮腫を主徴とする。このうち高血圧を必須とするが、その余はいずれかがあればいいという考えがある。軽症と重症に分ける。分かりやすいのは血圧値。軽症は下が90以上110以下あるいは上が140以上160以下。これを超える場合が重症。血圧にはばらつきがある。ただ、急な増悪が見られる。下が110付近に来たら、要注意。そのまま重症域まで突入すれば手遅れとなる。「たった一回の、急な上昇でしたので、時間をおいて測りなおそうと思っていました。」などと弁解される。
 ポイントは胎児の状態もあわせて厳重に観察・管理すること。母体と胎児の状態を別々に見ていると、妊娠中毒症も胎児仮死も軽症以下にしか見えない。まだまだと思っているあいだにターミネーション(妊娠の中断のための中絶あるいは急速遂娩)の機を失する。

 こんな事件があった。初産で、周産期を迎え、体重が増え、体全体が腫れぼったくなってきた。運動不足を指摘され、疲労感のなかで無理に運動する。たまらなくなって受診。血圧高め、浮腫全身、腎機能異常あり、蛋白尿2プラスあたりが見られ、妊娠中毒症(軽症)と診断。入院3日目以降、共同経営医師らがターミネーションを示唆。翌々日午後常位胎盤早期剥離。事故当日、午前から血圧上昇気味。ターミネーションを考え、分娩促進のためアトニンO服用開始。CTG監視を一旦はずして(30分程度)再装着したところ、児心音に高度除脈が見られ、その聴取不能まで十数分。急速遂娩(経膣)により30分で娩出したが、重症新生児仮死から重症脳性麻痺への転機をたどる。
 鑑定人は、急な胎盤早期剥離であった可能性が高く、結果回避は困難、すなわち、CTGによる連続監視をしていても、再装着直前の剥離であり、これ以上の対応は結果として無理だったとした。
 なされるべき賠償額に比べると低額に過ぎる金額での和解を強いられた。裁判を担ってきた原告は、「鑑定には腹が立つし絶対に許せない。しかし、この鑑定を覆すまでに闘いつづけることはできそうにありません」と。
 このとき生まれたA子さんは、もう10代。とても綺麗な娘さんです。なんでもかんでもその心の中にのみこんで澄ましておられる、そんなふうに見えます。

{類似語}子宮胎盤機能不全
 母体と胎児は子宮と胎盤を通じて循環する。この循環に何らかの障害がある場合。母体に見るものを妊娠中毒症とし、胎児側に見るものを胎児仮死兆候とする。原因と結果がはっきりしない。また、緩やかな剥離が先か、血流障害が先かもわからないことが多い。剥離、血流障害は分娩における自然経過として予定されてた出来事ではあるから。いずれにせよ、母体と胎児双方に循環障害を基調とする関連した異常が見られるときには、経過観察による軽快・改善は期待できない。
 いかに軽症域にあっても、その急な重症化・増悪傾向を疑い、早期に判断しなければいけない(と、僕は思う。ただ、そんな鑑定は見たことないし、軽々に期待もできない)。

{一口メモ}妊中は母体と胎児を悪循環する。

(八尋光秀)
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2009年12月01日

第10回医療事故全国一斉相談受付のご報告

 11月28日(土)、第10回医療事故全国一斉相談受付がおこなわれました。
 医療事故情報センター(名古屋)の呼びかけにより、全国50カ所に電話受付窓口を設置し、それぞれ地元の弁護士が電話で概要を聴取しました。

 私たち九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団も、同日10時〜15時、電話による相談受付を行いました。
 今回は、事前に新聞各紙に報じていただき、当日テレビニュースで放映いただいたこともあり、福岡では41件というたくさんの電話が寄せられました。

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 新聞やテレビで報じていただくと多くの電話が寄せられるということは、やはり医療事故に遭ったのではないかと考えておられる患者、家族の方々が相談窓口を知らずに悩んでおられるということだと思います。
 これからもこのような一斉相談受付を行う必要性を改めて感じました。
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2009年11月22日

医療事故全国一斉相談受付のご案内

 九州・山口医療問題研究会のような医療問題と取り扱う弁護士の会は、全国各地に存在します。それらの会は、毎年、医療事故情報センター(名古屋)の呼び掛けにより、医療事故に関する全国一斉の電話相談受付を行っています。

 今年も、第10回となる医療事故全国一斉相談受付を、全国50カ所で開催します。
 九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団でも、以下のとおりの日時・電話番号で、常時弁護士が待機して、電話(6回線)による相談受付を行います。

  日時:11月28日(土)午前10時から午後3時
  電話番号:092−641−2007 

 医療の安全に対する信頼を揺るがせ大きな社会問題を引き起こした横浜市立大学病院での患者の取り違え事件や都立広尾病院の消毒薬誤注射事件から10年、医療をめぐる情勢は変わろうとしています。医療事故については、死亡事案について原因究明調査を行っているモデル事業を、新たな法律に基づく死因究明制度として立ち上げるため、厚生労働省が「大綱案」を出し、全国の医療被害者をはじめ多くの市民が中立な第三者機関の設立を待ち望んでいるところですが、政権交代なった今、先が見えない状況です。
 今回の一斉相談受付は、改めて医療事故が身近な問題であることを明らかにすると共に、その情報を広く共有して、安全な医療を築くための一助とすることを目的としています。
 医療事故に遭ったかも知れないとお悩みの方は、電話受付ですので、お気軽にご相談下さい。

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