2013年02月25日

福岡地裁医療関係訴訟運営改善協議会


 2月15日、福岡地裁で第12回医療関係訴訟運営改善協議会が開催されました。

 これは、医療過誤事件に関わる裁判官(医療集中部)、弁護士(患者側・医療側双方)が、医療関係者とともに、医療過誤に関するさまざまな問題を議論するという協議会です。

 長期間にわたりがちな医療過誤訴訟を迅速に解決する方策として、各地裁に医療集中部が設置されるようになったのは2001年からのことです。まずは東京、大阪の2地裁に医療集中部が設置され、福岡地裁にも2003年4月に設置されました。また、2003年には、民事訴訟法が改正され、専門委員制度が創設されています。

 医療関係訴訟運営改善協議会は、このような情況に対応するために始まったものです。

 全国的に同趣旨の協議会が開催されているようですが、患者側弁護士の間には、このような協議会が、専門委員制度や鑑定のありかたを議論していた当初の趣旨から外れて、医療側が、医療現場での苦労や安全対策をアピールする場になっているという問題点も指摘されています。また、医療過誤訴訟の当事者になり得る(多くの場合は既に訴えられている)大学病院から医療関係者を招くのは、被告側と裁判所との馴れ合いを生むのではないか、少なくとも、医療過誤被害者からみれば裁判所の公平を疑わせるものではないか、との疑問も発足当初から指摘されているところではあります。

 そういった難しい問題があることは確かなのですが、わたしとしては、患者側の問題意識や、患者側代理人の取り組みを医療側及び裁判所に伝える機会として、この協議会を活用すべきだと考えています。

 協議会に参加する福岡県下4つの大学病院(九州大学、久留米大学、産業医科大学、福岡大学)は、確かに被告の立場にもなります。しかし、それと同時に、他の医療機関で医療過誤被害に遭った患者が、その後の治療を行うことが多いのもこれらの大学病院であり、その場合、患者側代理人からすれば協力を要請しなければならない相手になります。もちろん、教育機関として、医学生や若手の医師たちに、医療安全や患者の権利を教育するよう働きかける相手でもあります。実際、2009年の協議会では、当時議論が進んでいた医療事故調査委員会制度について説明し、医療関係者の理解を求める(ついでに医療研で企画しているシンポジウムの宣伝をする)という時間をとってもらったこともありました。


 今年のメインテーマは、「生存率等の医療統計資料の評価について」というものであり、医療関係者の立場から、福岡大学病院の山下裕一先生から、医学研究のさまざまなあり方と、それぞれのエビデンスレベルについて一般的なお話をうかがった後、患者側代理人から石田光史弁護士が、医療側代理人から五十川伸弁護士が、医療統計の扱いが問題になった裁判例をそれぞれ一例ずつ報告しました。

 石田弁護士が報告した裁判例は、横浜地裁平成24年1月19日判決で、胸痛を訴えて緊急搬送された患者に、胸部CTを行わず、大動脈解離を発見できないまま死亡に至ったという事案です。裁判所は、急性大動脈解離の発症の有無を鑑別するために胸部CT等の検査を行わなかった過失を認めましたが、緊急手術で救命された後の予後の統計資料に基づき、逸失利益を減額しているようです。

 五十川弁護士が報告した裁判例は、名古屋地裁平成21年12月16日。胆嚢のssがん(壁進達度が漿膜下層に達するがん)の予後が問題になり、原告・被告双方から、これに関する合計11の医学文献が提出されたという事案です。さまざまな予後予測の統計を示すこれらの資料の中から、裁判所は、事案同様に腹腔鏡手術が施行されたことが明らかな症例を対象とし、かつ母数となる症例数が201と最も多い報告を重視すると判示しました。

 横浜地裁の判決に関しては、「解剖の結果をみると、極めて動脈硬化が強くて、実際の予後は判決の認定よりも相当に厳しいのではないか。そもそも判決が過失と認定している時点でCTを撮影したとして、そこで大動脈解離を発見できたかさえも疑問である、その当たりもう少し適切な司法判断を心がけてほしい」との意見が、また名古屋地裁の判決に関しては、「これらの資料の中から、腹腔鏡手術を行った症例に限定し、かつもっとも母数の大きい報告を重視した裁判所の判断は適切だが、もう少し問題点を絞り込めば、この報告よりもかなり悪い予後が予測される」との意見が、医師側から出されました。

 たいへん勉強になる報告であり、議論だったのですが、考えてみると、わたし自身は、医療過誤訴訟の中であまりこういった統計的な資料に関するぎろんをしていないように思います。確かに、予後が問題になる事案はあり、そういった確率的な数字が報告されている証拠は提出するのですが、それ自体が決め手になるといった訴訟はあまり経験していません。

 例えば、胸部X線写真で肺がんを見落としたという裁判をしたことがあります。発見された時には既に脳転移があってW期、それからほぼ1年後に亡くなりました。後で振り返ってみると、脳転移が発見される1年前の胸部X線写真に、肺癌と思しき異常陰影が見られます。このときに胸部CTを撮影していれば、予後は全く違っていたのではないか、という裁判です。過失が問題になる時点の情報はその胸部X線写真が1枚あるだけで、他の検査は何も行われていません。この胸部X線上の陰影からすればTaあるいはTbであり、その前提で予後を認定して下さいというのが患者側の主張であり、あれこれ可能性を並べて、予後はもっと悪いのではないかと主張されても、それを調べてないこと自体が医療側の責任ではありませんか、というほかないのです。

 この協議会で報告された2例は確かに統計の議論が重要だったのかもしれませんが、そういった事案がどれくらいあるだろうか、と正直なところ思いました。

 そもそも、損害賠償訴訟における損害の認定というのは、医療過誤に限らず仮定に仮定を重ねたものであって、自然科学的に厳密に計算できるものではありません。その医療過誤の被害者の情況にぴったりあった医療統計が都合よく存在する場合は少なく、あまり統計的な数字を重視すると、ないものねだりを重ねてかえって訴訟が迷走する危険も感じます。結局のところ、損害認定というのは、損害の公平な分担という観点からの法的評価であって、医学的な統計資料はその材料の一つだという程度の捉え方でいいのではないでしょうか。

「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挾まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」というのは、最高裁昭和50年10月24日のルンバ−ル事件判決で示された因果関係の考え方ですが、自然科学的な証明と訴訟上の証明の違いは、損害論についても忘れてはならないことだと思います。

(小林洋二)
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2013年02月07日

医療ADRシンポに参加して


 平成25年1月25日,福岡県弁護士会が主催する医療ADRシンポジウム「医療ADRに期待される役割〜より信頼される制度を目指して〜」が行われました。
 私は,同シンポジウムの実行メンバーの一員として参加しました。

 ところで,皆さんは,「ADR」という聞き慣れない言葉に「何ぞや?」と思われるかもしれません。
 ADRとは,裁判外紛争解決機関のことで,民事紛争を簡易,迅速,構成に解決する民間機関として全国各地に設置されているもので,仲裁人を介して当事者による話し合いによって紛争を解決しようとするものです。
 福岡県弁護士会でも,平成14年12月にADRを設置し,平成21年10月からは医療紛争を専門に取り扱う医療ADRを始めました。福岡県弁護士会が行っている医療ADRでは,原則として,患者側代理人の経験豊富な仲裁人,医療機関側代理人の経験豊富な仲裁人,主任仲裁人の3名の仲裁人の合議体による和解あっせんを行っています。

 現在のところ,患者側がADR申立を行うことが多いのですが,医療機関側がADRでの話し合いに応じず(平成24年12月5日現在の応諾率は66.6%),せっかく申立を行っても,ADR自体が成立しないという状況になっています。
 そのためか,医療ADRの申立件数も,設置当初22件あったものの年々減少し,平成24年(但し,平成24年12月5日現在)は6件しかありませんでした。
 そこで,医療ADRをもっと活用してもらおうと,今回のシンポジウムが開催されることになりました。

 シンポジウムでは,医療ADRの申立件数が年20件を超え,応諾率も74.1%という愛知県弁護士会で医療側代理人を務めておられる中村勝己弁護士から,愛知県弁護士会における医療ADRの状況について基調講演がありました。
 中村弁護士は,紛争解決のためには医療側と患者側の相互理解が不可欠であるが,そのためにはまずは話し合いの場に出てきてもらって説明をしてもらう,そこから始めることが重要であることを指摘されました。医療ADRを活性化させるためには「Honest Talking」ができるための環境整備が不可欠だと感じました。

 そして,後半は,医療機関を代表して福岡県医師会副会長の野田健一さん,医療ADR利用経験のある元患者さん,九州大学大学院法学研究院准教授の入江秀晃さん,基調講演を行った中村さん,福岡県弁護士会の植松功さんをパネリストに迎え,「医療ADRに期待される役割」をテーマにパネルディスカッションが行われました。
 この中で,野田さんからは,福岡県医師会では独自に医事調停を行っており,これにより一定の紛争解決を図っていることや,医療事故が発生した場合には真相解明を行い,これにより再発防止を図ることが重要であるところ,医療ADRでは真相解明がなされず,再発防止につながらないことが問題であると指摘されました。
 この点については,中村さんや入江さんから,医療ADRの目的に真相解明を持ってくることはそもそも制度的に困難であることや紛争解決手段として当事者が話し合いをできる場を設定することが重要であることが指摘されました。

 医療事故が発生した場合,重大な結果が生じることも少なくなく,患者側には「どうして」という思いが強いと思います。
 私が,患者側代理人として医療事故に携わった経験からも,患者側は医療機関側から納得のいく説明がなかったことや医療機関側が患者側の訴えに耳を傾けてくれなかったことに強い憤りを感じているように思います。医療ADRは,そのような患者側の声を医療機関側に伝える場として意義のある制度だと思います。
 医療ADR利用経験のある元患者さんは,医療ADRを利用しての感想について次のように発言されていました。

「自分がどうしてこのような医療事故にあわなければならなかったのか,医療ADRによってもその理由について納得することはできませんでした。でも,医療ADRで話し合いができたことで,自分の中でこの問題についてケジメを付けることができ,前に進めることができました。」

 医療ADRで全てのことを解決することはできないかもしれませんが,一つの解決手段としてやはり意義のある制度であると実感しました。

(佐川民)
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2013年01月17日

「死生学」入門講座においで下さい


市民大学 医療講座 死生学入門

2月23日(土)午後2時〜3時30分

講師 谷田憲俊さん
 (内科医、前山口大学医学部教授、日本ホスピス・在宅ケア研究会理事)

「日本人の死生観の変遷を振り返る」

参加費 500円(資料代含む)

会場 天神ビル11階会議室 福岡市中央区天神2−12−1



 「死生学」ということば、実は近頃よく耳にします。
 文字どおり、死と生をめぐる学問。

 最初に「死生学」という概念に出会ったのは、うんと昔、キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』がはやった頃でしょうか。

 日頃、医療事故の相談を受け、さまざまな事件を扱う中で、たびたび死と生について考えさせられます。特に末期がんや再発がんなどのように、死に向き合わざるを得ない事案の場合、依頼者の生と死と、真摯に向き合わざるを得ないのはもちろんのこと、死を見つめながら、最後までいのちの光を輝かせて生きるためには、どうあるべきか、ということを考えさせられてしまうのです。

 出会った事例の中には、ひとがそのひとらしく生きるために、関わった医療従事者がもっとうまくサポートできたのではないか、と、地団駄踏むような思いをするものがあります。正確な情報が提供されていないために、無用な焦りや、不安に駆られ、どうみても誤っているとしか思えない選択を強いられるひとがいます。

 どうして。
 どうして、ひとりの人が、その残された貴重な時の過ごし方を選択する、本当に大切な場面だというのに、往々にして、最善の選択をすることが困難になるのか。どうして、惑い、迷い、道を踏みあやまってしまうのか。

 そう考えた時、ふと、私たちが、生の成り立ち、死のあり方について、あまりにも無知であることが、その原因の一端ではないかと思えてきました。

 わたしたちは、必ず死を迎えます。遠い先か、ほんの目の前のことなのか、誰にも知ることはできません。けれど、必ず訪れ、私たちに終わりを告げる死。その死と生について、改めて向かい合い、じっくりと考えてみることが必要ではないか、そう思いました。

 そこで、昨年11月から3回にわたる『死生学講座』を企画しました。

 この企画はNPO法人患者の権利オンブズマン、医療事故防止・患者安全学会との共催になっています。第1回は、倫理学を専攻する作家の波多江伸子さんによる『笑う終活講座』。ともにがんで亡くなったご両親を看取り、自らも二度甲状腺がんを患った経験から、何人もの、死に直面したがん患者の伴走者として活動し、「がん・ばってん・元気隊」という患者サポート活動に従事されています。

 自分の父親が末期の胃がんと分かり、息を引き取るまでの日々を、まさに家族の視線から撮影した砂田麻美監督の第1回監督作品『エンディング・ノート』の予告編や、昨年10月に死亡した流通ジャーナリスト金子哲雄さんが、自分の葬儀に用意した挨拶文(11月には死の直前に書き上げた『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』が出版されています)、周防正行監督の最新作『終の信託』など、取っつきやすい材料を示しての、分かりやすい、そしてそれぞれが自分の生活に引きつけて考えることのできる講座でした。参加されていた「終活」受講生(がん患者)の、「先生の講座を受けて、死ぬのがちょっと楽しみになってきました」という言葉がとても印象的でした。

 12月1日には、在宅緩和ケアの草分けのひとりである医師の二ノ坂保喜さんによる『死を見つめて生きる〜在宅ホスピスの現場から』。この道に進むきっかけとなった書籍との出会いや、長年にわたる臨床実践を通じてのさまざまな経験を踏まえて、具体的な症例を紹介しながら、在宅で最後を迎えることは誰にでも可能なはずだという思いを込めてお話しいただきました。

 そして、いよいよ第3回目、最後の講座が、2月23日土曜日午後2時、天神ビル11階の会議室で開催されます。内科医で山口大学医学部教授を務められた谷田憲俊さんによる『日本人の死生観の変遷を振り返る』。講座を締めくくるに相応しい、歴史的な経過を踏まえた、深い講座になりそうです。

 ぜひぜひ、多くの方に足を運んでいただきたいと思います。

 以下は、本入門講座のチラシの案内文です。昨年配布したものなので、東北大震災について「昨年」と表記されています。


 だれもがいつかは死を迎えます。
 昨年の東北大震災では、たくさんの方々が、いちどきに津波にのまれ、尊い命が奪われました。私たちは、想像を絶する数の死のしらせに身を震わせました。
 けれど、私たちに「死」の姿は見えているでしょうか。
 ひとが死にゆくとはどういう営みであり、やがて来る死を自分はどんな形で迎えたいのか。具体的にイメージできているでしょうか。
 ほとんどの人が病院で死を迎える時代ですが、一方では在宅での看取りを進める動きもあります。このところ、終末期医療について、法制化をめぐる議論も盛んになっています。
 死の在り方について、ちゃんと向き合って考えないということは、生についても正しく知らず、ひいては自分に対する医療の選択において、欠かすことのできない重要な要素を欠いているということにならないでしょうか。
 むずかしい、深刻な問題ですが、まずはみんなで死と生を考えてみようよ、そんな気楽なイメージで、「死生学」入門講座を企画しました。


(久保井摂)
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2012年12月14日

韓国視察ツアー


 少し前になりますが、去る10月17〜19日、当弁護団の久保井弁護士・石田弁護士が、韓国に視察旅行に行ってきました。

 その様子を、石田弁護士が自身のブログにアップしていますので、ご紹介いたします。


  その1

  その2

  その3

  おまけ

(管理人)
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2012年07月30日

医療に翼を 〜和白病院訪問記〜


 先日、和白病院の見学に行ってきました。

 その際の感想を、九州合同法律事務所で実務修習中の金納修習生が書いてくれましたので、以下ご紹介します。


1 はじめに

 はじめまして、司法修習生の金納達昭と申します。今年の5月31日から7月30日まで、九州合同法律事務所で弁護修習をさせて頂いています。

 7月23日、医療研の弁護団の先生方と一緒に、福岡市東区の福岡和白病院において、医療搬送用ヘリコプターの見学をし、同病院の副院長兼救急部長・救急搬送システム部部長である冨岡譲二先生のお話を聞かせてもらう機会があったので、その報告をさせて頂きます。


2 医療搬送用ヘリコプターの見学

 福岡和白病院に着いてまず、医療搬送用ヘリコプターの飛行訓練が行われるということで、その現場を見学させて頂きました。

 福岡和白病院の医療搬送用ヘリコプターは、名称を「ホワイトバード」といい、100%民間運営の医療搬送用ヘリコプターです。行政である国や地方自治体が運営するドクターヘリや消防防災ヘリと比べると、離発着場はひとつひとつ許可が必要で事故現場に急行するといった使い方は出来ませんが、行政区域に縛られない搬送や離島・僻地への下り搬送が可能という、ドクターヘリや消防防災ヘリにはないメリットがあるうえ、患者に搬送費の負担はないそうです。

 今回訓練に使用されていたのは、「ホワイトバード」ではない代替機でしたが、「ホワイトバード」も同型で、軽量級のコンパクトなタイプのものだということでした。機体の中にも入らせてもらったのですが、患者や医者を含めた合計6人が乗ることができるよう、空間を機能的に使った構造になっていました。

 そして、実際に、ヘリコプターの離陸を見てみると、すごい風が吹いて離陸したと思ったら、あっという間に小さくなっており、大変なスピードだなと感じました。実際、福岡和白病院から対馬まで約33分で到着するらしく、離島や僻地に住まわれている方々にとっては、医療機関にアクセスする大変有効なオプションであると思います。


3 冨岡先生のお話

 その後、冨岡先生に福岡和白病院内を案内して頂いた後、スライドを交えて、冨岡先生の経歴や、福岡和白病院が医療搬送用ヘリコプターを運営することになった経緯、そして冨岡先生が弁護側証人をつとめた押尾学の裁判についてのお話を聞かせて頂きました。

 冨岡先生は、これまでに海外での被災地支援など様々な活動を行っており、また医療搬送用ヘリコプターの話を持ちかけられてからわずか9ヶ月間で運営を開始したそうで、とてもフットワークが軽く行動力に長けた方なのだなという印象を抱きました。

 また、冨岡先生は、世間からバッシングされるリスクを冒して、あえて押尾学の裁判で証言をしたのは、被害者の方の救命可能性に関して医学的に誤った裁判例が作られるのは、今後の医療現場のために良くないとの思いからであるとお話しされました。個人的な損得を超え、医師としての職業的な倫理観に従うという行為は、とても勇気のいることだと強く感じました。


4 終わりに

 その後、病院の近くにある冨岡先生のなじみの中華料理屋で食事をしながら、いろいろなお話を聞かせて頂き、とても楽しい時間を過ごすことができました。

 冨岡先生と半日お話しして、冨岡先生は、とても接しやすいフランクな人柄でありながら、医師としての倫理観持ち、それを貫く強さを持った方だなと思いました。

 世間からバッシングされるかもしれない場にあえて出ること、誰もやらない新しい事業を始
めること、どれをなすにもとても力が必要だと思います。

 患者側の弁護活動を行う医療研の先生方もそうですが、それぞれ職業にプラドをもってやるべきこと貫くことは、良い社会を構成していくためにとても大切なことだと思います。

 そして、そのような矜持を持って活動されている方は、人間的にも魅力のある方だなと感じました。

(管理人)
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2012年07月24日

公開討論会「産科医療補償制度の本質を議論する」に参加して

 7月22日13時30分から、広尾の北里大学薬学部で、医療制度研究会主催による「産科医療補償制度の本質を議論する」という討論会が開催されました。産科医療補償制度原因分析委員会の岡井崇委員長と、この制度に対する批判の急先鋒である池下久弥医師(池下レディスチャイルドクリニック院長)及び井上清成弁護士が徹底討論するという企画です。


討論会企画の趣旨

 産科医療補償制度というのは、分娩に関連して脳性麻痺となったお子さんに、医療機関側の過失・無過失を問わず一定の経済的補償を行うとともに、脳性麻痺の原因を分析し、同種事案の再発防止に役立てようという制度です。詳しくは同制度のホームページをご参照ください。

 この制度に対して、井上弁護士は「産科医療補償制度は私的制裁であり私的裁判である〜医療事故調の誤った実際例」、池下医師は「産科医療補償制度で紛争は増加し産科を希望する医師はいなくなる」、「医師の人権が無視されている」といった批判を浴びせています。

 前回の医療制度研究会主催の講演会で、演者であった池下医師の「原因分析報告書が紛争を誘発する」という発言に対し、岡井委員長がフロアから事実誤認を指摘したことから、今回の討論会が企画されたということのようです。


井上清成弁護士の発言

 討論会は、まず井上弁護士のプレゼンから始まりました。その目玉は、弁護士チームによる紛争増加の影響評価です。井上弁護士は、石川善一弁護士(山梨県弁護士会)、田辺幸雄弁護士(東京弁護士会)及び、大磯義一郎、神田知江美、山崎祥光という3名のダブルライセンサー(医師と弁護士の二つの有資格者)に対し、100件の原因分析報告書について、産婦がそれを持参して法律相談にやってきたと仮定した場合、「損害賠償請求をやってみる価値あり」とアドバイスする案件がどれほどあるか」という評価を依頼していました。その結果は、石川意見によれば26〜44件、田辺意見によれば38件、ダブルライセンサーグループによれば38〜63件。これらを総合して三者のいずれかに相談に来たら訴訟に至るのが確実に思える案件が19件、紛争になるのが確実に思える案件が29件、紛争になる可能性がある案件が69件(可能性なしが31件)という数字を出しています。因みに、井上弁護士のところに相談に来たら79件は紛争になる可能性があるそうです。
 

池下久弥医師の発言

 それに続く池下医師は、原因分析報告書の評価を「判決」とし、三権分立に違反する明らかな憲法違反である、と主張しました。さらに、「医師を『犯罪人』にする『有責判決』は、開示された100例中79例の79%に及び、『無責』判決は21例に過ぎない。この報告書開示で、患者は分娩機関に不信感を持ち紛争を起こす。この報告書『判決』があれば、民事裁判で勝訴することは確実で、損害賠償金は1億5千万円にもなるからだ」などと自説を展開しました。

 また、原因分析報告書が、産婦人科診療ガイドラインに沿った評価をしている点も批判しているようです。ガイドラインは法的拘束力はなく、必ずしも従う必要はないのに、それに従わないと、即、有責と判断してしまうのはおかしいのではないかというのが池下医師の立論です。


岡井崇医師の発言

 これに対し、原因分析委員会の委員長である岡井崇医師は、平成23年末までに補償対象となった252件のうち、損害賠償請求されているのは10件(うち損害賠償義務が確定したものが2件、訴訟中が3件、交渉中が5件)、これに証拠保全だけ行われている8件を加えても18件、全体の7.1%でしかないという数字を上げて反論しました。以上は補償対象となったものを母集団としたものですが、23年末までに報告書が送付された87件を母集団にすると、損害賠償請求(証拠保全を含む)が行われているものは8件です。そのうち6件は報告書送付以前に請求の意思が表明されており、報告書送付後に請求がなされたのは2件だけでした。

 また、産婦人科診療ガイドラインに反すれば有責だというような法的な判断は加えていない。ガイドラインは産婦人科医がみんなで議論して、みんなで決めたものなのだから、これを守っていこうというのが我々の立場だというのが岡井医師の説明でした。


明らかになった結論

 池下医師の言説は、原因分析報告書の「誤っている」、「劣っている」、「医学的妥当性がない」といった否定的な評価を、そのまま「有責判決」、「犯罪人(扱い)」に結びつけるものです。いくら法律家ならぬ医師であるとはいえ、壇上から制度批判をする以上、もう少し、判決、三権分立、有責・無責、犯罪者といった言葉の意味を勉強してほしいものです。ごく普通の弁護士に尋ねれば、それが勘違いであることくらいすぐに教えてくれるはずです。

 しかし、井上弁護士によれば、産婦が自分に相談すれば、「79件は紛争になる可能性あり」というのですから、池下医師の見解は、井上弁護士のアドバイスを得た上でのものかもしれません。もしそうであれば、医師の法律に対する勘違いを増幅させるものであり、患者にとっても医師にとっても有害無益でしょう。

 医療研でも、この原因分析報告書の検討を行っています。「損害賠償請求の価値あり」という案件がどれほどあるかといった観点で分析したことはありませんが、石川弁護士や田辺弁護士の3割前後といった数字はそう外れていないのではないかという印象を受けます。しかし、原因分析報告書が紛争を誘発するかどうかを評価するためには、報告書を読んだ後に、読む前と比べて、損害賠償請求に積極的になるか消極的になるかを検討しなければならないはずです。井上弁護士の分析にはそんな視点は全くありません。

 演者間のディスカッションにおける井上弁護士の発言も、理解困難なものでした。
「いま訴訟が起きていないのは、訴訟を起こすとこの制度が潰れてしまうからだ。制度発足5年目の見直しを経てこの制度が定着した段階で一斉に訴訟が起こされる。そのときになって後悔しても遅い」…という趣旨のことを云っていたように聞こえたのですが、いったい誰がそんな陰謀めいたことを企んでいるのでしょう。

「問題は訴訟が多いか少ないかではない。一件でも無辜の医師が責任追及されるようなことがあってはならないし、本来であれば責任追及が可能であった産婦が訴訟を諦めるようなことがあってはならない」…もっともらしい意見ですが、さっきまで原因分析報告書で紛争が誘発され訴訟が頻発することに警鐘を鳴らしていた人の言葉とは思えません。適切な原因分析は、理由のない訴訟が減り、泣き寝入りする産婦が少なくなることにも繋がるはずです。

 池下医師や井上弁護士の批判が的外れであることは、明らかです。


会場発言から

 162名収容の会場はほぼ満員で、この問題への関心の高さをうかがわせるものでした。東京周辺だけではなく、遠隔地から参加した産科医の方もおられました。その方々の発言は、池下医師や井上医師の発言とは比較にならないくらい健全なものでした。

「自分の施設では年間700件以上の分娩を取り扱っていて訴訟リスクに晒されている。今回の分析対象になった100例の原因分析報告書の中にも、自分が取り扱った脳性麻痺の事例が含まれている。池下先生はその事例を『有責判決』の中に含めているが、実際には、脳性麻痺の原因とは遠い部分で少しお叱りを被っただけであり、必要なことをやっていれば原因分析が怖いものではないことが分かった。こういった事例まで、訴訟になるぞと脅かすのはいかがなものか」

「以前、産科医が努力すれば周産期の妊産婦死亡は3分の1に減らせるという意見を述べると叩かれたものだが、現実にはこの15年間で実際に3分の1に減らせた。同じように、この産科医療補償制度の原因分析によって、脳性麻痺を減らす効果が期待できると思う。ガイドラインに従う必要があるのか否かといった議論もあるようだが、事例の集積によってガイドラインの内容自体が充実していくのではないか」

 こういった前向きの発言に対しては、期せずして会場から拍手が沸き起こりました。

 
問題の本質は何か

 この討論会により、原因分析報告書で紛争が誘発され、裁判が頻発するという危惧には何の根拠もないことが明らかになりました。池下医師や井上弁護士がどう感じたかは分かりませんが、少なくとも、会場で討論を聴いていた参加者のほとんどにとって、討論の帰趨は明白だったはずです。

 しかし、それが「産科医療補償制度の本質を議論する」という討論会のテーマに相応しいものであったかどうかはやや疑問なしとしません。やはり、問題の本質は、原因分析を脳性麻痺の減少にどう結びつけていくかという点であり、そのために、現在の原因分析が十分なものか否か、その原因分析を今後どう活用していくべきかといった点こそが議論されるべきです。

 ただ、この制度で紛争が誘発されるとか、79%の事例で医師が犯罪者扱いされるとか、そういった誤解が産科医の間に蔓延するようであれば、せっかくの原因分析の成果も正当には評価されないでしょう。現実の医療に携わる産科医の方々が、この制度を前向きに受け止めることは、脳性麻痺減少という目標が実現するための必要条件とも云えます。

 産科医のみなさんが、池下医師や井上弁護士による不毛な原因分析批判を克服し、ほんとうに本質的な議論に参加されることを願ってやみません。

(小林)
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2012年05月28日

シンポジウム「医療事故調査制度を設計するために」


 5月26日午後1時30分より、名古屋市において、シンポジウム「医療事故調査制度を設計するために 〜報告と調査の現状と課題から〜」が開催されました。

 これは、医療過誤訴訟で患者側の立場に立つ医師や弁護士のネットワーク「医療事故情報センター」の総会に合わせ、総会記念シンポジウムとして開催されたものです。これに九州・山口医療問題研究会から、安倍弁護士と私が参加してきました。



 第1部として、様々な立場の方からの講演がありました。

 まず最初に、基調報告として、医療事故情報センターの堀康司弁護士から、医療事故調査制度に関する議論の経緯と論点の整理がなされました。

 2番目に、(公財)日本医療機能評価機構の坂井浩美氏から、「医療事故情報収集等事業の観点から」と題し、同機構が行っている医療事故情報収集等事業(ヒヤリ・ハット事例の収集など)について説明がありました。

 3番目に、日本医療安全調査機構の中央事務局長を務めておられる原義人医師から、「診療行為に関連した死亡の調査分析事業について」と題し、同機構が行っている、いわゆる「モデル事業」の現状について、説明がありました。
 これは私は不勉強で知らなかったのですが、モデル事業では、昨年から、当事者医療機関内において外部委員も入れた上で調査を行う「協働型」という方式が行われているそうです。

 4番目に、京都大学医学部附属病院医療安全管理室の室長を務めておられる松村由美医師から、「院内事故調査の観点から」と題し、同病院で行っている院内事故調査の実際、特にインシデントの報告方法や件数等について、説明いただきました。
 院内事故調査や、特にその調査に入る前の報告がどのように上がってくるのかについては、外部者である我々からは見えにくいところですので、大変興味深い説明でした。

 最後に、医療機関側で代理人を務めておられる宮澤潤弁護士より、「法律家の観点から」と題して講演がありました。
 趣旨としては、医療機関側も、患者側も医療の安全を目指すという目的は同じだと思うが、立場が違うので、そこに至るコースが違ってくる。医療機関側の観点からすると、医師の軽過失についての刑事免責は非常に重要だと思っている。人間は、自己に不利益が課せられる場面において真実を話すのは難しいものである。医療事故調査・再発防止は、医師に真実を語ってもらわなければ進まないので、この点からは、刑事免責が重要である。というものでした。



 次に第2部として、上記講演者に2名の弁護士コーディネーターを交え、パネルディスカッションが行われました。

写真.JPG

 ここではまず、第1部の講演について、会場からの質問に回答したり、参加者からの会場発言などがなされました。

 その中で、読売新聞大阪本社編集委員・原昌平氏からの発言が興味深いものでした。同氏は、自身の義父が病院で急死し、死因不明であったため、モデル事業で調査してもらうという経験をされ、この経験を同紙コラム「医療ルネサンス」で発表されています(2012年2月1日〜2月10日)。
 この経験から、同氏は、
    ・調査の途中においても、患者側に対し中間報告のようなものを行い、
     それに対する患者側の意見を取り入れるべき、
    ・もっとも、調査それ自体に患者自身が入るのは現実問題としては
     困難と思われるので、第三者委員として患者側の弁護士や市民団体
     などの委員が参加すべき、
といった提言をされました。

 また、パネルディスカッション後半の話題は、第1部で宮澤弁護士が話をした医師の刑事免責についてでした。

 京大病院の松村医師は、医療事故報告を受けている実際の感覚として、刑事免責がないからといって報告がゆがめられているとは思わないとのことでした。

 刑事免責を主張される宮澤弁護士も、軽過失と故意・重過失は分けるべきであり、後者については刑事責任を問われることもあり得るとのご意見でした。

 これに対し堀弁護士は、刑事責任があると隠しやすいから免責がほしいというのは、論理としては分かるが、人の生命・身体を取り扱うプロフェッションの主張としてはどうなのか、という疑問を呈しました。また、医療に密室性の壁があるのであれば、それを透明化する方策をとってからでなければ、刑事免責は国民のコンセンサスを得られないと考える、との意見を述べられました。

 お二人の議論は、医療機関側・患者側それぞれの立場からのもので、双方ともなかなか折り合いは難しいものと感じました。

 この点、会場発言として、加藤良夫弁護士から、誠実に患者に向き合っている医師であれば、刑事免責がないのであれば真実は話さないなどということはないはずだ、とのご意見がありました。


 この医師の刑事免責については、どこまでいっても平行線といったところもあるように思います。
 私自身としては、軽過失の医療過誤をどんどん刑事事件にすべきだとは全く思いませんが、法制度として、医師だけに刑事免責という特権を与えることは、他の職業との比較等においても難しいのではないでしょうか。しかもその理由が、「刑事責任があると本当のことを言えない」というものであったとしたら、国民のコンセンサスが得られるか、非常に厳しいと考えます。



 そしてシンポジウムは、様々な立場はあるが、医療事故調査制度を実現するということ自体は非常に有益であり、実現に向けてさらに取組みを行っていくこととして、閉会になりました。



 医療事故に遭った患者やその遺族は、もちろん適正な賠償も求めるものですが、それと同時に、あるいはそれ以上に、なぜこんなことが起こったのかという真相究明、また、二度と同じような事故が起こって尊い命が奪われる(あるいは重篤な後遺障害を残す)ようなことがないようにという再発防止、これを強く願う方が少なくありません。

 医療事故調査制度の創設は、そのような患者や遺族の求めに応え、また医療が国民の信頼を取り戻すための大きな一歩だと思います。

 医療事故調査制度について、九州・山口医療問題研究会でもこれまで、シンポジウムを開催したり、モデル事業についての研究を行うなど、取組みを行ってきましたが、残念ながら、政権の交代や一部医師の強硬な反対などにより、未だ実現していません。

 しかし今年2月から、無過失補償制度の創設に関する厚生労働省の検討会の下に、医療事故の調査制度を検討する部会が設けられ、再び医療事故調査制度を作ろうという機運が高まってきています。

 今度こそは、ぜひともこの制度の実現が望まれます。

(石田)
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2012年04月14日

医療事故全国一斉相談受付のご報告

(ずいぶん古い話になってしまいましたが、昨年の一斉相談の報告です。)


 2011年11月26日、第11回医療研全国一斉相談受付を行いましたので、ご報告いたします。

 この相談受付は、医療事故被害者の相談先が乏しいという現状から、被害者に法律相談窓口を周知する必要性が大きいということで、名古屋の医療事故情報センターの呼びかけにより、1991年以降、全国で行われています。今年も全国50カ所で行われ、九州・山口医療問題研究会でも、過去10回と同様、各県弁護団事務局において電話での相談受付を行い、私自身も、福岡で相談受付を担当しました。

 相談受付は、11月26日(土)午前10時〜午後3時まで行われ、まずは電話で事案の概要を聴き取り、希望者には後日、弁護士による面談相談(無料)実施します。

 相談受付は、全部で11名の弁護士が、午前・午後に分かれて担当しました。午前中は、なかなか電話も鳴り響かなかったのですが、テレビ局の取材が入り、お昼のニュースで流れた途端、4つあった回線が全て埋まる時間もあるほど、電話が殺到しました。

 結局、福岡での相談受付は全体で28件となり、名古屋、東京(2団体合計)に次いで3番目という電話の多さでした。

 内訳としては、産婦人科3件、外科6件、整形外科3件、脳神経外科2件、美容外科1件、内科2件、眼科4件、精神科1件、歯科3件、その他2件(複数の方あり)です。被害としては、死亡が3件、脳障害が2件、脳障害以外の後遺症11件、その他8件でした。

 また、電話受付を行った全体のうち、後日の面談相談を希望され調査カード送付を行った件数は17件となりました。

 どのような点に不満を感じたかという点については、医療事故という被害を受けたことそのものに対するものが一番多かった(15件)のですが、事前の説明、事故の説明に不満を感じているケースも、それぞれ半数程度ありました。好ましくない事態(過失の有無にかかわらず)が発生した場合に、事前・事後の説明・対応に誠意を感じることができなかったことが、医療事故の被害を拡大させていると感じました。

 実は、私自身は、担当している医療過誤事件は、すでに訴訟提起段階から関わらせていただいているものばかりで、医療相談(後日の相談に向けた受付とはいえ)を受けるのは初めてでした。ご自身が、あるいは身近なご家族が、思いがけず医療事故に遭われ、何か一つ変わればこのような結果ではなかったのではないかという納得できない思いや、自分にもっとできることがあったのではとご自身を責められるなど、複雑な思いを抱えていることが、伝わってきました。

 調査カードを希望された方には、すでに調査カードの送付がなされています。今後、医療過誤事件の経験のある弁護士が、面談で無料相談を行い、詳細なお話を伺った上で、今後どのように進めていくか、相談者と決めて行くことになります。

 医療過誤の被害に遭われた方の相談窓口は、まだまだ少ないのが現状です。今後弁護士との面談相談を受ける方だけでなく、今回調査カードを希望されなかった方にとっても、今回の電話相談受付が、被害に遭われた思いを語ることのできる場所になれていればと願っています。

(原田純子)
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2011年10月19日

「第54回日弁連人権擁護大会プレシンポジウムin福岡 『患者の権利の法制化を目指して』―幸せを支えることのできる医療のあり方を考える―」に参加して

1.はじめに

 2011年9月3日(土)、福岡市東区にあるガスホールにて、第54回日弁連人権擁護大会プレシンポジウムin福岡「患者の権利の法制化を目指して」―幸せを支えることのできる医療のあり方を考える―が行われました。

 実行委員会の委員の一人として、本プレシンポのご報告をさせていただきます。


2.プレシンポの内容

 プレシンポは2部構成で行われました。前半は実行委員会が行った福岡県における医療実態調査報告、後半は、なぜ患者の権利を法制化する必要があるのか等をテーマとするパネルディスカッションが行われ、前半に報告された実態をふまえた議論がなされました。

 パネリストは、薬害肝炎全国原告団代表の山口美智子さん、九州大学名誉教授でハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会座長代理を務められた内田博文教授、福岡県医師会副会長の野田健一医師、そして、実行委員の一人でもあり、患者の権利法をつくる会事務局長の小林洋二弁護士の4人で、白熱した議論をしていただきました。


3.調査報告

 前半の実態調査報告では、救急、周産期、小児、過疎地域、貧困、外国人、被拘禁者という7つの分野ごとに、実行委員会委員が調査した内容を簡単に報告しました。なお、調査は、自治体や医療機関への聴き取り、統計結果の分析などによって行われ、それぞれの分野の詳しい調査結果を1冊の報告書としてまとめ、当日配布しています。

 まず、救急では、三段階の救急医療体制が整備されていること、福岡県の救急搬送における平均搬送所要時間が全国最短で、統計上は高水準であることの報告がなされました。一方で、現場では二次、三次救急医療機関への振り分けの問題や、救急医療機関や医療従事者の不足・偏在といった問題も指摘されており、より充実した救急医療体制の確立に向けた継続的な取り組みの必要性も明らかになりました。

 周産期では、今年度からNICUが増床され母体搬送の不応需がかなり減少するなど、福岡都市圏・北九州都市圏ともに、周産期医療体制が概ね整っていることが明らかになりました。もっとも、開業医の高齢化の問題もあり、新人医師確保のためには、医師が人間らしく働きやすい体制を整える必要があることも指摘されました。

 小児では、チャイルドライフスペシャリストという専門家の配置や院内学級の設置など、子どもである患者のインフォームドコンセントや発達・学習権をサポートする先進的な取り組みが始まっている一方、小児科の需要拡大に対し医師数が不足し、勤務状況がかなり過酷となっていること、医師数の増員が必要不可欠であることが報告されました。

 過疎地域では、無医地区に公立の診療所を設立して自治医大出身の医師を県職員として派遣するという対応でかなりの成果を上げており、他県と比較して福岡県は恵まれた環境にある一方で、自治体の財政悪化で無料送迎バスが廃止され、引継ぎのための医師二人体制が採れないなどの問題もあり、それらの問題の解消は自治体レベルでは困難で、財政的な裏付けを含む国の積極的な関与が必要であるとの報告がなされました。

 私が担当した貧困では、国民健康保険料の滞納によって発行される非正規保険証(短期保険証・資格証明書)の所持者が受診を我慢し、重症化、最悪の場合は死亡する事例が多くなっているという問題が全国的に生じていること、福岡市では、全国の政令都市の中でもトップクラスに保険料が高く、非正規保険証の発行数も多いという危機的状況にあること、保険の種類や保険証の有無にかかわらず、窓口の自己負担が支払えず、受診できない人も数多くいることの報告をさせていただきました。深刻な事態にあることを会場の皆さんにも伝えるべく、聴き取りをさせていただいた千鳥橋病院のメディカルソーシャルワーカーである荒木さんにお越しいただき、「当事者の声」として、実際の事例などについてご報告いただきました。

 外国人では、無保険外国人は原則として全額自己負担となるため、実質的に「国籍」や「経済的負担能力」によって医療を受けることができていないという、貧困分野と重なる問題提起と、福岡ではまだ実施されていない外国人未払い医療費補填事業等の紹介がありました。さらに、医療通訳の問題については、民間の取り組みはあるが、外国人患者の知る権利や自己決定権の実現に必要不可欠であるため、公的な整備が必要であることが指摘され、小児の問題との共通点も見出せました。

 最後に、被拘禁者については、福岡県弁護士会の人権救済申し立てや矯正施設からの聴き取りによって、常勤医師の不足や外部医療機関との提携の不十分さに加え投薬拒否、診察・治療拒否など医療を受ける権利自体が保障されていない現状と、社会的には広く認められてきたインフォームドコンセントやカルテ開示請求権がいまだ認められていないという深刻な問題があることが報告されました。

 これら7分野の実態調査報告により、住んでいる地域や国籍、経済的負担能力の有無などで医療を受ける権利自体が脅かされている実態があること、すべての人に等しく安全な医療を提供するためには、医師数の増員や医師の勤務体系の改善など医療機関の疲弊を改善する対策が必要であること、子どもや外国人など自己決定をするための適切なサポートが必要な人にとって、サポートが十分でない現状があることが明らかになりました。


4.パネルディスカッション

 後半のパネルディスカッションでは、まず、それぞれのパネリストが患者の権利の法制化についての考えを述べるところから始まりました。

 薬害肝炎訴訟の原告として、恒久対策や真相究明・再発防止の取り組みをされてきた山口さんが、自らの「患者」としての経験から、積極的に医療に参加していくことの大切さと、それを可能にする体制の必要性について語られました。

 そして、内田教授からは、ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会の「医療基本法の法制化の提言」についてのご説明がありました。日本では、患者の権利や医療の基本原則に関する規定が、施設法にすぎない医療法などに無理に挿入されているためか、いろんな場面で矛盾が生じており、自主的な倫理規定だけでは解決できない問題が多くあることから、医療基本法の法制化が必要であること、新たな医療基本法の法制化によって、患者と医療従事者との相互不信を相互信頼の関係に変えることが喫緊の課題であることを語っていただきました。

 これに対し、野田医師から、医師は自ら職業倫理について考え、よりよい医療を目指して日々実践しており、あえて患者の権利を法制化する必要はないのではないか、過酷な勤務態勢で頑張っている医師に対し、更なる負担を課すことになるのではないか、モンスターペイシェントを多く生み出すのではないか等の懸念があるというお話しがありました。

 それを受けて、小林弁護士が、患者の権利を法制化において、医療提供者は患者と対立するものではなく、患者が国・地方公共団体に対して基本的人権としての患者の権利を求めていくのを、患者の権利を実現するためのサポーターとして支え、患者と一緒になって国に対して患者の権利を守ることのできる医療体制の確立を求めていく立場にあるのだという説明をされました。

 その後の議論では、野田医師が指摘された法制化の懸念を主なテーマに、コーディネーターの黒木弁護士の司会で、前半の実態調査報告の内容もふまえながら意見交換がなされました。そこでは、医師の自助努力ではどうしようもない問題(特に貧困など)もあること、医師が人間らしく働きやすい環境を整えることが患者の権利の実現に不可欠であり、そのための方策を国や自治体に求めることができるよう、国のあるべき医療について患者の権利を軸に明記した法律が必要であることなど、法制化の必要性について十分に納得できる議論が展開されたと思います。

 とても有意義なプレシンポでした。


5.おわりに

 実行委員会の一員として準備に携わり、当日の報告や議論を聞いていると、最初は漠然としていた「患者の権利の法制化」の内容が自分の中で段々明確になり(まだまだ不十分なのでしょうが)、その必要性についても自分のこととして実感することができ、大変勉強になりました。その後、高松で行われた人権大会の本シンポジウムにも参加したのですが、献身的な医師が不必要な隔離政策に関わり、未曾有の人権侵害を引き起こしたハンセン病問題の教訓を生かし、患者の権利を法制化する必要性がより明確に理解できました。

 個々の医療事件の処理だけでなく、よりよい医療になるように、今後は、微力ながら患者の権利の法制化に向けた活動にも参加していきたいと思います。

(緒方枝里)
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2011年10月13日

医療事故全国一斉相談受付のお知らせ

〜あなたの経験、あなたの思い、あなたの声をうけとめます〜

 来る11月26日(土)午前10時から午後3時まで、全国の医療事故相談窓口で一斉に、電話による、医療事故に関する相談受付が行われます。
 この企画は、名古屋にある医療事故情報センターの呼びかけで2年に1回実施されているもので、今回が11回目となります。

 自分や身内の医療に関して、事故かな?と感じた経験を持っている人は、結構たくさんいらっしゃると思います。けれど、ならば法律相談に出かけるかというと、ためらってしまう方が多いのではないでしょうか。
 医療事故一斉相談受付は、そんな、相談してみたい気持ちを胸に秘めながら、一歩踏み出せないでいる方々にも、ちょっと電話をかけてみませんか、と呼びかけるものです。

 病院で入院中に、避けうる医療事故によって命を落とす人は、交通事故で亡くなる人よりも多い、と、アメリカのある統計は報告しています。
 医療事故を、悪しきもの、封印すべき汚名として、事実を伏せる時代は過去のものになりつつあります。ひとつの医療事故には、学ぶべき多くの教訓が含まれています。事故事例を集積し、原因を分析して、未来の医療における患者の安全を守ろうという動きが、すでにはじまっています。このブログでも何度かご紹介しているとおりです。

 事故ではないか、という思い、あの結果は避け得たのではないかという悔いは、声を上げてこそ、はじめて、未来の医療を栄養するものとなります。

 九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団でも、当日、全国と同じ時間帯に、一斉相談受付を行います。5名以上の弁護士が待機し、電話でお話をお聞きします。
 この日は、あくまでも相談の「受付」ですから、事案の詳しい内容はお聴きしません。けれど、当日全国で受け付けられた事例の件数や、科目、事案の特徴などを数値化し、マスコミに発表するために、簡単に事情をお尋ねします。実際に面談相談まで希望されるかどうか、相談者にご判断いただく程度の事情はお聞きすることになります。
 正式な相談は、ご希望があれば、面談でお受けします。後日、弁護士2名が1時間無料で相談を担当します。その際は、相談会場までおいでいただくことになります。

 当日は、福岡県弁護団の通常の電話番号とは異なる、当日のみの番号で受け付けます。当日の番号については、後ほど改めて、ここに掲載させていただきますので、お待ちください。
気がかりな事情を抱えておられるお知り合いにも、声をかけていただければ幸いです。

(管理人)
posted by 管理人 at 17:07| Comment(0) | TrackBack(0) | イベント・催し物等