2013年02月07日
医療ADRシンポに参加して
平成25年1月25日,福岡県弁護士会が主催する医療ADRシンポジウム「医療ADRに期待される役割〜より信頼される制度を目指して〜」が行われました。
私は,同シンポジウムの実行メンバーの一員として参加しました。
ところで,皆さんは,「ADR」という聞き慣れない言葉に「何ぞや?」と思われるかもしれません。
ADRとは,裁判外紛争解決機関のことで,民事紛争を簡易,迅速,構成に解決する民間機関として全国各地に設置されているもので,仲裁人を介して当事者による話し合いによって紛争を解決しようとするものです。
福岡県弁護士会でも,平成14年12月にADRを設置し,平成21年10月からは医療紛争を専門に取り扱う医療ADRを始めました。福岡県弁護士会が行っている医療ADRでは,原則として,患者側代理人の経験豊富な仲裁人,医療機関側代理人の経験豊富な仲裁人,主任仲裁人の3名の仲裁人の合議体による和解あっせんを行っています。
現在のところ,患者側がADR申立を行うことが多いのですが,医療機関側がADRでの話し合いに応じず(平成24年12月5日現在の応諾率は66.6%),せっかく申立を行っても,ADR自体が成立しないという状況になっています。
そのためか,医療ADRの申立件数も,設置当初22件あったものの年々減少し,平成24年(但し,平成24年12月5日現在)は6件しかありませんでした。
そこで,医療ADRをもっと活用してもらおうと,今回のシンポジウムが開催されることになりました。
シンポジウムでは,医療ADRの申立件数が年20件を超え,応諾率も74.1%という愛知県弁護士会で医療側代理人を務めておられる中村勝己弁護士から,愛知県弁護士会における医療ADRの状況について基調講演がありました。
中村弁護士は,紛争解決のためには医療側と患者側の相互理解が不可欠であるが,そのためにはまずは話し合いの場に出てきてもらって説明をしてもらう,そこから始めることが重要であることを指摘されました。医療ADRを活性化させるためには「Honest Talking」ができるための環境整備が不可欠だと感じました。
そして,後半は,医療機関を代表して福岡県医師会副会長の野田健一さん,医療ADR利用経験のある元患者さん,九州大学大学院法学研究院准教授の入江秀晃さん,基調講演を行った中村さん,福岡県弁護士会の植松功さんをパネリストに迎え,「医療ADRに期待される役割」をテーマにパネルディスカッションが行われました。
この中で,野田さんからは,福岡県医師会では独自に医事調停を行っており,これにより一定の紛争解決を図っていることや,医療事故が発生した場合には真相解明を行い,これにより再発防止を図ることが重要であるところ,医療ADRでは真相解明がなされず,再発防止につながらないことが問題であると指摘されました。
この点については,中村さんや入江さんから,医療ADRの目的に真相解明を持ってくることはそもそも制度的に困難であることや紛争解決手段として当事者が話し合いをできる場を設定することが重要であることが指摘されました。
医療事故が発生した場合,重大な結果が生じることも少なくなく,患者側には「どうして」という思いが強いと思います。
私が,患者側代理人として医療事故に携わった経験からも,患者側は医療機関側から納得のいく説明がなかったことや医療機関側が患者側の訴えに耳を傾けてくれなかったことに強い憤りを感じているように思います。医療ADRは,そのような患者側の声を医療機関側に伝える場として意義のある制度だと思います。
医療ADR利用経験のある元患者さんは,医療ADRを利用しての感想について次のように発言されていました。
「自分がどうしてこのような医療事故にあわなければならなかったのか,医療ADRによってもその理由について納得することはできませんでした。でも,医療ADRで話し合いができたことで,自分の中でこの問題についてケジメを付けることができ,前に進めることができました。」
医療ADRで全てのことを解決することはできないかもしれませんが,一つの解決手段としてやはり意義のある制度であると実感しました。
(佐川民)
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