2012年05月28日
シンポジウム「医療事故調査制度を設計するために」
5月26日午後1時30分より、名古屋市において、シンポジウム「医療事故調査制度を設計するために 〜報告と調査の現状と課題から〜」が開催されました。
これは、医療過誤訴訟で患者側の立場に立つ医師や弁護士のネットワーク「医療事故情報センター」の総会に合わせ、総会記念シンポジウムとして開催されたものです。これに九州・山口医療問題研究会から、安倍弁護士と私が参加してきました。
第1部として、様々な立場の方からの講演がありました。
まず最初に、基調報告として、医療事故情報センターの堀康司弁護士から、医療事故調査制度に関する議論の経緯と論点の整理がなされました。
2番目に、(公財)日本医療機能評価機構の坂井浩美氏から、「医療事故情報収集等事業の観点から」と題し、同機構が行っている医療事故情報収集等事業(ヒヤリ・ハット事例の収集など)について説明がありました。
3番目に、日本医療安全調査機構の中央事務局長を務めておられる原義人医師から、「診療行為に関連した死亡の調査分析事業について」と題し、同機構が行っている、いわゆる「モデル事業」の現状について、説明がありました。
これは私は不勉強で知らなかったのですが、モデル事業では、昨年から、当事者医療機関内において外部委員も入れた上で調査を行う「協働型」という方式が行われているそうです。
4番目に、京都大学医学部附属病院医療安全管理室の室長を務めておられる松村由美医師から、「院内事故調査の観点から」と題し、同病院で行っている院内事故調査の実際、特にインシデントの報告方法や件数等について、説明いただきました。
院内事故調査や、特にその調査に入る前の報告がどのように上がってくるのかについては、外部者である我々からは見えにくいところですので、大変興味深い説明でした。
最後に、医療機関側で代理人を務めておられる宮澤潤弁護士より、「法律家の観点から」と題して講演がありました。
趣旨としては、医療機関側も、患者側も医療の安全を目指すという目的は同じだと思うが、立場が違うので、そこに至るコースが違ってくる。医療機関側の観点からすると、医師の軽過失についての刑事免責は非常に重要だと思っている。人間は、自己に不利益が課せられる場面において真実を話すのは難しいものである。医療事故調査・再発防止は、医師に真実を語ってもらわなければ進まないので、この点からは、刑事免責が重要である。というものでした。
次に第2部として、上記講演者に2名の弁護士コーディネーターを交え、パネルディスカッションが行われました。
ここではまず、第1部の講演について、会場からの質問に回答したり、参加者からの会場発言などがなされました。
その中で、読売新聞大阪本社編集委員・原昌平氏からの発言が興味深いものでした。同氏は、自身の義父が病院で急死し、死因不明であったため、モデル事業で調査してもらうという経験をされ、この経験を同紙コラム「医療ルネサンス」で発表されています(2012年2月1日〜2月10日)。
この経験から、同氏は、
・調査の途中においても、患者側に対し中間報告のようなものを行い、
それに対する患者側の意見を取り入れるべき、
・もっとも、調査それ自体に患者自身が入るのは現実問題としては
困難と思われるので、第三者委員として患者側の弁護士や市民団体
などの委員が参加すべき、
といった提言をされました。
また、パネルディスカッション後半の話題は、第1部で宮澤弁護士が話をした医師の刑事免責についてでした。
京大病院の松村医師は、医療事故報告を受けている実際の感覚として、刑事免責がないからといって報告がゆがめられているとは思わないとのことでした。
刑事免責を主張される宮澤弁護士も、軽過失と故意・重過失は分けるべきであり、後者については刑事責任を問われることもあり得るとのご意見でした。
これに対し堀弁護士は、刑事責任があると隠しやすいから免責がほしいというのは、論理としては分かるが、人の生命・身体を取り扱うプロフェッションの主張としてはどうなのか、という疑問を呈しました。また、医療に密室性の壁があるのであれば、それを透明化する方策をとってからでなければ、刑事免責は国民のコンセンサスを得られないと考える、との意見を述べられました。
お二人の議論は、医療機関側・患者側それぞれの立場からのもので、双方ともなかなか折り合いは難しいものと感じました。
この点、会場発言として、加藤良夫弁護士から、誠実に患者に向き合っている医師であれば、刑事免責がないのであれば真実は話さないなどということはないはずだ、とのご意見がありました。
この医師の刑事免責については、どこまでいっても平行線といったところもあるように思います。
私自身としては、軽過失の医療過誤をどんどん刑事事件にすべきだとは全く思いませんが、法制度として、医師だけに刑事免責という特権を与えることは、他の職業との比較等においても難しいのではないでしょうか。しかもその理由が、「刑事責任があると本当のことを言えない」というものであったとしたら、国民のコンセンサスが得られるか、非常に厳しいと考えます。
そしてシンポジウムは、様々な立場はあるが、医療事故調査制度を実現するということ自体は非常に有益であり、実現に向けてさらに取組みを行っていくこととして、閉会になりました。
医療事故に遭った患者やその遺族は、もちろん適正な賠償も求めるものですが、それと同時に、あるいはそれ以上に、なぜこんなことが起こったのかという真相究明、また、二度と同じような事故が起こって尊い命が奪われる(あるいは重篤な後遺障害を残す)ようなことがないようにという再発防止、これを強く願う方が少なくありません。
医療事故調査制度の創設は、そのような患者や遺族の求めに応え、また医療が国民の信頼を取り戻すための大きな一歩だと思います。
医療事故調査制度について、九州・山口医療問題研究会でもこれまで、シンポジウムを開催したり、モデル事業についての研究を行うなど、取組みを行ってきましたが、残念ながら、政権の交代や一部医師の強硬な反対などにより、未だ実現していません。
しかし今年2月から、無過失補償制度の創設に関する厚生労働省の検討会の下に、医療事故の調査制度を検討する部会が設けられ、再び医療事故調査制度を作ろうという機運が高まってきています。
今度こそは、ぜひともこの制度の実現が望まれます。
(石田)
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