2011年02月13日

医事用語のいろは7

{ト}頭部外傷後遺症

 一時性脳損傷に引き続き、直接的、間接的に生じた続発性と慢性期に見られるものとがある。慢性期にみられるものでは、自律神経−血管運動神経症状をもとにさまざまな自覚症状、神経症状が見られる。


 およそ10年前の交通事件。脳挫傷、頭蓋骨骨折、前頭洞骨折、頭蓋底骨折などの傷害を負った依頼人がきた。救急治療が功を奏し救命。後遺症もほとんどなさそうに、明るく笑いながら。


 事故直後意識はどうでしたか。 
 2〜3日失っていたのではないでしょうか。

 あなた自身の記憶ですか。
 いいえ僕は1ヶ月後くらいに気がつきました。2〜3日後頃に一旦目を覚ましはしたそうです。

 後遺症についてはどうですか。
 嗅覚の脱出と難聴というか耳鳴りです。

 そのほかにはどうですか。例えば、てんかんなんかは。
 脳外科では心配は要らないと言われました。

 あなた自身はどうですか。
 うーん、耳鳴りですね。それと少しボーとすることがあります。

 生き辛さはどうですか。
 職場に戻ってとてもきつい感じがします。

 もう一度きちんと脳の検査をしたほうが良いですね。


 大学病院、総合病院の脳外科を再受診。その結果、とくに問題はない。心配しないで前向きに生きていった方が良い。

 仕方なく提訴。

 彼はさらに生き辛さをましてくる。仕事上の間違いが多くなる。集中力持続しない、感情が変わりやすい、なんか事故以前の自分とは違う。
 CT,MRIなどの検査技術を持つ精神科への受診。そして医師との面談。


 どうですかね。
 深刻やね。

 なんがですか。
 前頭葉中心部が2センチ四方に欠損して、脱落しとる。まあ、脳が水になっとる。

 それはどげえなるですか。
 深刻たい。


 前頭葉症状群、前頭葉の損傷によって、最も高等な精神総合能力の障害をきたし、その脳神経症状は多岐にわたる。IQなどの一般的な知能の低下は生じないとされるが、注意障害、記憶障害、行動障害がいずれも特徴的に見られ、長い転機をたどり、人格の変化・荒廃までに至ることもあるとされる。


 人間らしい複雑な行動の計画および実行が無理。柔軟に対応できんし、普通なら簡単に無視できることが無視できん。

 なんですか。それは。
 つまりね、電話かけよって、後ろで小さくテレビの音がなったらもう話ができんごとなる。大きい音で聞こえんとじゃないぜ。それと、ちょっと前のことばもう忘れる。全部メモせないかん。また覚えたいくつかのことを意味のあるごと整理することができん。

 はあー。
 一番いかんとは、行動の制御、抑制、選択ができんごとなる。まーだこれから先の話しやけど。どこにめし食いに行くから、決めるとに3時間かかったり、目の前に荷物ばおかれたら使わなんごたる気分になる。自分らしく判断も行動もできんごとなり、20年30年かかって意欲を欠き衝動的で粗暴になったりする。

 そりゃ大事ですばい。はよ本人に言うて裁判所に診断書ばださな。
 告知はようしきらん。20、30年たったらあんたの人格はのうなるやら言いきらん。


 医師を説得し、意見書を書いてもらい、本人と相談して詳しい告知は裁判所の証言台から。

 満額の勝訴判決。彼は明るく笑いながら、「これからですね」。
 今はやりの高次脳機能障害。当時は多くの医師が告知を避けた。癌よりも統合失調症よりも言い出せないと。患者は知らされないまま生き辛さを深めていく。

 この10年で変わったかな。

{一口メモ}頭部外傷、物忘れ、反応遅れは、要注意。

(八尋光秀)
posted by 管理人 at 16:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 読み物
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