2010年07月09日

九州・山口医療問題研究会30周年シンポジウム報告

 去る7月3日(土)、福岡国際会議場において『九州・山口医療問題研究会30周年シンポジウム〜医療ADRを考える〜』が開催されました。


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1.医療ADRとは?

 医療事故紛争に関わる方々の中でも、必ずしもなじみのない医療ADRという存在について、私の備忘をかねて記載しておきます。

 医療ADRとは、その名のとおりADR(Alternative Dispute Resolution)(裁判によらない紛争解決)の医療事故紛争版です。

 3人の仲裁人(裁判官経験等のある弁護士・患者側代理人の経験豊富な弁護士・医療側代理人の経験豊富な弁護士)の下で、当事者間の対話により、医療事故紛争をスピーディーかつ柔軟に解決しようとするもので、福岡においても平成21年10月1日に開設されました。

 医療事故訴訟の抱える、@とかく複雑で長期化しやすい、A損害賠償請求権の有無が審判対象となり真相究明や謝罪を求める当事者の意思に必ずしも合致しない、B両当事者対立構造の下、医療側と患者側の信頼関係が決定的に破壊される、といった問題を打開するものとして期待されていましたが、蓋を開けてみると、昨年度22件の申立てのうち、半数以上がそもそも相手方が出席しない「不応諾」で終了しており、和解に至ったものはわずか2件で、有効に活用されているとはとてもいえない状況です。
 そこで、現状の問題点を認識し、その解決に向けた道筋を考えるため、今回のシンポジウムが開催されました。


2.シンポジウムについて

(1)基調報告

 まず、基調報告として、東京三弁護士会が開設する医療ADRにおいて仲裁・あっせん人を務める安東宏三弁護士より、東京における医療ADRの現状が報告されました。

東京では、2007年9月の発足から2009年4月までの間に、72件の申立てがなされていますが、そのうち45件が応諾され、その32.8%にあたる19件について和解が成立しています。

 東京の医療ADR成功の背景には、医療側仲裁人及び医療側代理人の存在があり、彼らが医療ADRは医療事故紛争の解決のために有用であるとの認識を共有していることが、医療機関を手続に参加させる動力になっているとのことでした。

(2)パネルディスカッション

 続いて、医療研の久保井摂弁護士をコーディネーターとして、安東弁護士、福岡で医療ADR主任仲裁人を務める簑田孝行弁護士、福岡県医師会常任理事の大木實医師、そして医療ADRを用いて和解に至った利用経験者の方によるパネルディスカッションが行われました。

 簑田弁護士は、「説明の場なら医師会の医事調停がある」ということで不応諾となってしまった経験があること、医師会との事前の意思疎通不足を感じしたことなどを語られました。

 大木医師からは、現在の医療ADRの問題点として、@診療時間帯である平日昼間に医療施設から離れた場所に出向くのは個人開業医には負担が大きいこと、A医師会が作り上げてきた医事調停手続との齟齬、B既に十分な説明を行ったにもかかわらず納得がいかないとして再度の説明を求められることの負担などがあり、何より、医師は弁護士に対して一種トラウマがあり、弁護士のみで構成される手続に乗れば、患者に対する救済ありきの偏った判断がなされるのではないかというおそれを抱いていることなどが指摘されました。 

 医療ADR利用経験者の方からは、患者は必ずしも訴訟などという大げさなことは考えておらず、医師に患者に向き合って対応して欲しいと思っていること、自分が受けた医療について不信と不満があったが、医師に説明を求めているうちに自分がクレーマーなのではないかという思いに駆られたこと、医療ADRという手続に乗ったことで、「医療」というフィールドの中でなく、「社会」という広いフィールドの中で問題が認識され、自身の主張がおかしいわけではないということが確認され安心した経験などが語られました。


3.シンポジウムに参加して

 今回、医療ADR側(弁護士側)、医療側、患者側の三者がディスカッションを行ったことは、非常に有意義であったと感じました。
 弁護士側は、医師会の医事調停について、医師会内部で行われるもので中立性・透明性に問題があると考えていましたが、医療側から見れば、医療ADRも弁護士会が作ったよく分からない制度なのであって、医療事故紛争解決に役立つ中立な手続であるという認識を共有しないままに、負担をおして参加するよう求めたのでは不応諾も無理もないと思いました。

 他方で、医療側も、医療ADR利用経験者の方のお話を聞くことで、医事調停における説明も医療事故被害者にとってみれば「医療」というフィールドからの説明でしかなく、一定の限界があるということを認識されたのではないかと思います。

 以上のように、改善に向けての問題点が認識されたわけですが、医療ADR利用経験者の方からは、今後、制度の構築・運営に力点が置かれ、実際の対話の努力がおろそかになることへの危惧も示されていました。

 医療ADRの活性化に向けて、やらなければならないことは数多くありますが、それらにかまけるあまり最も大事なことをおろそかにしては元も子もありません。大木医師がパネルディスカッションの中で、「患者にとっては一生に一度のことが、自分達にとってはいつものことで、そこで感覚が摩耗してしまうことが一番怖い」という内容のお話をされていましたが、これは医療に限った話ではないと思います。医療ADRも、当事者にとって一生に一度の問題である医療事故紛争について、機械的に処理するのではなく、当事者と共に考え、より良い解決に導いていく制度であるべきことを忘れないようにしなければならないと思いました。

 それを忘れそうになったとき、この日のことを思い返そうと思います。

(管理人)
posted by 管理人 at 19:01| Comment(0) | TrackBack(0) | イベント・催し物等
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