2010年01月31日

医事用語のいろは 4

 ずいぶん更新の間が空いてしまいました。医事用語のいろは・その4です。

{に}妊娠中毒症(toxemia of pregnancy)

 妊娠が誘因とされる。母体の異常あるいは症状としてとらえるのが一般。母体の高血圧、蛋白尿、浮腫を主徴とする。このうち高血圧を必須とするが、その余はいずれかがあればいいという考えがある。軽症と重症に分ける。分かりやすいのは血圧値。軽症は下が90以上110以下あるいは上が140以上160以下。これを超える場合が重症。血圧にはばらつきがある。ただ、急な増悪が見られる。下が110付近に来たら、要注意。そのまま重症域まで突入すれば手遅れとなる。「たった一回の、急な上昇でしたので、時間をおいて測りなおそうと思っていました。」などと弁解される。
 ポイントは胎児の状態もあわせて厳重に観察・管理すること。母体と胎児の状態を別々に見ていると、妊娠中毒症も胎児仮死も軽症以下にしか見えない。まだまだと思っているあいだにターミネーション(妊娠の中断のための中絶あるいは急速遂娩)の機を失する。

 こんな事件があった。初産で、周産期を迎え、体重が増え、体全体が腫れぼったくなってきた。運動不足を指摘され、疲労感のなかで無理に運動する。たまらなくなって受診。血圧高め、浮腫全身、腎機能異常あり、蛋白尿2プラスあたりが見られ、妊娠中毒症(軽症)と診断。入院3日目以降、共同経営医師らがターミネーションを示唆。翌々日午後常位胎盤早期剥離。事故当日、午前から血圧上昇気味。ターミネーションを考え、分娩促進のためアトニンO服用開始。CTG監視を一旦はずして(30分程度)再装着したところ、児心音に高度除脈が見られ、その聴取不能まで十数分。急速遂娩(経膣)により30分で娩出したが、重症新生児仮死から重症脳性麻痺への転機をたどる。
 鑑定人は、急な胎盤早期剥離であった可能性が高く、結果回避は困難、すなわち、CTGによる連続監視をしていても、再装着直前の剥離であり、これ以上の対応は結果として無理だったとした。
 なされるべき賠償額に比べると低額に過ぎる金額での和解を強いられた。裁判を担ってきた原告は、「鑑定には腹が立つし絶対に許せない。しかし、この鑑定を覆すまでに闘いつづけることはできそうにありません」と。
 このとき生まれたA子さんは、もう10代。とても綺麗な娘さんです。なんでもかんでもその心の中にのみこんで澄ましておられる、そんなふうに見えます。

{類似語}子宮胎盤機能不全
 母体と胎児は子宮と胎盤を通じて循環する。この循環に何らかの障害がある場合。母体に見るものを妊娠中毒症とし、胎児側に見るものを胎児仮死兆候とする。原因と結果がはっきりしない。また、緩やかな剥離が先か、血流障害が先かもわからないことが多い。剥離、血流障害は分娩における自然経過として予定されてた出来事ではあるから。いずれにせよ、母体と胎児双方に循環障害を基調とする関連した異常が見られるときには、経過観察による軽快・改善は期待できない。
 いかに軽症域にあっても、その急な重症化・増悪傾向を疑い、早期に判断しなければいけない(と、僕は思う。ただ、そんな鑑定は見たことないし、軽々に期待もできない)。

{一口メモ}妊中は母体と胎児を悪循環する。

(八尋光秀)
posted by 管理人 at 18:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 読み物
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