このところオバマ大統領の支持率低下についてあれこれ取りざたされています。その2大原因ともいうべきものがアフガン問題と医療制度改革です。ここでは医療制度改革についてご紹介します。
ご承知の通り、アメリカには国民保険制度がありません。だから高齢者と一部弱者を除いて、アメリカ国民は自分の健康保険を買わなければなりません。定職に就くことができ一定以上の収入があれば保険料を負担できますが、無保険状態にある人が人口の15.8%、4700万人もいます(2006年時点)。
公的医療保険の導入は、オバマ大統領の所属する民主党にとっては長年の課題でした。クリントン大統領の時代にも法案作成まではこぎ着けましたが、共和党の強硬な反対によって廃案となってしまいました。
今度こそ高い支持率を背景に、拡大する貧困層や経済格差の広がりによる社会問題が深刻になっている現状を踏まえ、広い支持を取り付けて立法化を実現したいところですが、共和党をはじめ反対派による激しいネガティブキャンペーンが展開され、また支持を得るための妥協によって元々の案から後退せざるを得ないなどのために、法案を通過させることがたいへんに厳しい状況にあります。
ところで、この法案、上院と下院と双方で審議されることになりますが、同じ医療制度改革法であっても、それぞれ持ち込まれる法案は別個のもののようです。去る11月7日土曜日の夜遅くに220票対215票というまことに僅差で下院を通過しました。党派を超えて支持される法案を目指したものの、共和党員で賛成票を投じたのは1名のみ。また民主党員でも、保守派が多くを占める地域選出の議員をはじめ39名が反対票を投じています。
それはともかく、相当困難であるとされていた下院通過がかなって、オバマ大統領はじめ法案を推し進めてきた議員達は勢いづいているもののよう。今後上院での審議を経て、上院の法案も可決されれば、両院の法案を調整した上で作成する最終案が大統領の机に届けられることになっているとのことですが、上院では下院と違い、6割の賛成票が得られなければ可決されないとのこと。まだまだ長い道のりを必要とします。
さて、当日のニューヨークタイムズの記事をご紹介します。
医療改革法下院通過
下院は土曜日の夜、かろうじて、民主党がその社会政策の成果と位置づけられるとする法律を推進することによる国内の医療システムの総点検法案を可決し、オバマ大統領に厳しいたたかいにおける勝利をもたらした。
一日がかりの共和党との激烈な議論の後、それは数十年にわたる民主党の目標だったわけだが、国会議員達は220対215で10年間に1.1兆ドルを必要とする計画を採択した。民主党議員達は法律が医療保険を維持しようと苦闘しているアメリカ国民に延び延びになってしまったものの安心を提供するだろうと説明している。
「今こそこの国の医療を改革するときだ」とカリフォルニア選出の民主党議員で法案の主要な立案者のひとりであるジョージ・ミラーは述べた。
民主党は最終投票における通過を確実にするため、中絶の保険負担について大きな妥協をすることを迫られた。それは、多数の中絶権擁護者にとってはゆがんだ妥協であった。
彼らの多くは、今や医療制度改革闘争の主戦場となることになる上院との交渉までの間に修正案を変更し、議場における広範な議論に耐えうるものにしたいと考えている。
民主党員達は、(メディケアの予算を削ると共に新たな課金と税金を課すことによって賄われる)下院の法案は、政府による保険プログラムが創設されるまでの間、現在無保険状態の3600万人に対象を広げることになる、それは既往症をカバーせず、病気になった人々を切り捨てる保険会社の運用を終結させるだろうという。
共和党は投票を批判し、法案が立法化されるまでの間反対を続けると述べた。「この政府による買収は大統領の机にたどり着くまでにまだまだ長い道を必要とする。したがって私はあらゆる手段を尽くしてあらゆる機会において戦いを継続するつもりだ」と、テキサス州の共和党議員ケビン・ブラディは述べた。
下院の議場では、ここ数日間下院議員から賛成票を取り付けるために指導者達が数え切れないほどの時間を費やした末に、掲示板が218票目の決定的な投票を明らかにしたとき、民主党員はハイタッチを交わして喜びを交わし、荒々しく祝福した。他方共和党員達は沈黙したまま着席を保っていた。
「我々はアメリカ国民に我々がやると約束したことをやったのだ」と多数党院内総務であるメリーランド州の民主党議員ステニー・ホイヤーは述べると共に、「まだ多くの仕事が残っている」と注意を促した。
この成功した投票は、オバマ氏が立法議員達に「歴史の呼び声に応えよう」、そして法案を支持してほしいと個人的に訴えるためにキャピトル・ヒルを訪れた日に訪れた。
共和党議員ではルイジアナ州選出のアン・カオ議員のみが賛成票を投じ、39名の民主党議員が反対票を投じた。下院はまた共和党のより緩やかな法案、その立案者がより常識的で財政的な責任のあるアプローチと述べたものを否決した。
法案に反対した民主党員は主として保守派の地域から選出されており、法案に賛成票を投じることが来年の中間選挙において政治的な危険因子となると考えたものと思われる。
「今日の投票は苦しかったが、社会保障法案を通過させた1935年もそうだった」と下院の長老であるミシガン州選出の民主党議員ジョン・ディグネルは、土曜日の夜遅くに終了した討論について述べた。
民主党員の中には法案の中に進歩を認めることができたので投票したと述べる者もいる。
「この法案は上院においてもっと良くなるでしょう」と法案のいくつかの条項について批判を明らかにしたものの支持することに決めたテネシー選出の民主党議員ジム・クーパーは述べた。「もしここで否決してしまうと、改善する機会を失うことになる」
投票後、オバマ氏は演説において下院を称えると共に上院にこの採決に従うように呼びかけた。「私はそうなるだろうと間違いなく確信している」と彼は言い、「今年中には包括的な健康保険改革法案を施行するために署名できることを期待している」と述べた。
多数党のリーダーであるネバダ州の上院議員ハリー・ライドは法案をできる限り速やかに議会に提出するつもりだと述べた。
投票は、2006年の民主党の下院における勝利から3周年の日に行われ、その下院通過は法案を1993年にビル・クリントン大統領によって試みられた医療見直し法案を超えたものとした。
立法者達はオバマ氏が投票の直前に民主党員達と行った非公開の会議に出席していた間に、数名の反対意見の議員を転向させたと考えた。
また民主党員の多くは、予想されたより困難であることが分かった勝利を、ナンシー・ペロージ議長が押し込んだと信じている。「彼女は本当の意味でこの問題について針に糸を通したのだ」とマサチューセッツ州の民主党議員ジム・マクガバンは述べた。
重要なターニングポイントは、ペロージ女史が金曜の夜に中絶反対派の民主党員に、連邦予算を使うあらゆる保険計画のもとにおける処置に対する支払の制限を強化しようとすることを認める決定を行ったことにある。その妥協は一定の民主党員が法案を見捨てる脅威を和らげたが、また中絶権を支持している左派民主党員らを自分達が激しく批判していた規定に戻るか、それとも法案を棄てるかの選択に直面させることとなった。法案に対し、240対194の可決で新たな中絶制限が加えられた。
オバマ氏は民主党員達に40年前の高齢者に対するメディケアの創設以来の最大の医療立法を支持するよう勇気づけるあらゆる努力の一環として、週末には滅多に顔を見せないキャピトル・ヒルに現れた。
キャノン・コーカス・ルームにおける民主党員達との個人的な会合において、大統領は共和党員全員一致の反対と保守派の厳しい批判にさらされているという政治的な厳しさが存在することを認めた。
しかし、大統領は「私はローズ・ガーデンにおいてこの法案に署名するなら、君たちの誰もが将来そのことを思い出し、『これは私の政治活動における最良の瞬間だった』と振り返るだろう」と言って励ました。
共和党員達は法案はコストがかかりすぎ今後数十年にわたって国家に重荷を負わせる結果となると述べた。民主党員の中にも反対理由を説明する際に同じ見解を明らかにした者もいる。
「この法案は全経済に対する建物解体用の鉄球である」とジョージア州の民主党議員ジャック・キングストンは述べた。「我々は医療の割れ目に落ち込んでしまった人々を救済することを目的とした具体的な改革を必要としている」
しかし民主党員らは、共和党員らは医療の現状における地位を守ろうとすることに心を砕いているが、民主党の新たなアプローチはアメリカ国民の可能性を広く高め、無理のない健康保険を獲得できるようにするだろうと述べた。
「今こそ我々の医療制度を整え、数十万人のアメリカ国民の生活を改善させるチャンスだ」とニューヨーク州民主党議員で議事運営委員会座長のルイス・スローターは一日がかりの討議を開始するにあたって述べた。
共和党の反対の壁は民主党員達にほとんど戦略の余地を与えず、彼らはできる限り多くの議員を囲い込もうと試みた。しかし議論の方法を明確にするための予備投票は242票対192票となり、民主党の勝利が手の届くものになったことを示していた。
下院の投票はこの国において医療が供給される方法を大きく変革する法律を制定する民主党の念願の目標に関する重要なステップである。しかし上院はまだ独自の新たな法案を審議せねばならず、2つの議会は来たる数週にわたって交渉しさらに最終案を承認しなければならない。
下院の民主党議員達が法案のために最低限必要な数の投票を集めるために必要とした努力は大統領の机に最終的に法律を届けることがいかに困難であるかを明確に示すものであった。
下院の法案は、約2000頁に上り、ほとんどのアメリカ国民が健康保険に加わるかペナルティを支払うことを要求しており、共和党員達はそれを政治による抑圧と同視すべきアプローチであるとしている。
雇用者のほとんどは保険を提供するか最大その給与の8%の追徴税を払わなければならない。法案は、メディケイドを大いに拡張し、中程度の所得階層の人々が私企業または政府の保険計画から保険を購入することを支援する助成金を提供するものである。それはまた人々が購入する保険を選ぶことのできるような保険の改革を実現するものである。
共和党員達は、下院において、無保険者の内30万人のみに適用を広げるより緩やかな自分達の計画を推し進めようとした。しかし、その立案者はその計画は彼らが多くのアメリカ国民の主たる関心であるプライベートな保険の掛け金を引き下げるものだと述べた。
「税金が高ければ高いほど、浪費が増え、ますます政府は人々の支援を改善する計画をしなくなる」と民主党案を休みなく批判し続けた保守派のノースキャロライナ州共和党議員バージニア・フォックスは述べた。
しかし、民主党員達は、自分達の提案は長いこと延び延びになっていたが、医療保険を獲得し維持しようと格闘しているアメリカ国民の高まる不安を取り除くものであって、高騰する医療費を管理下に置くことによって経済問題を究極的には改善するものであると述べている。
「我々の計画は完璧なものではないが、全てのアメリカ国民に対し、利用可能な医療を供給するための良いスタートである」とオレゴン州の議員ペーター・デファジオは述べた。
(11月7日NYTimesのWebサイトより翻訳)
2009年11月15日
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