2009年10月02日

医事用語のいろは 1

 新シリーズ、医事用語をいろはで解説。

い:イレウス(ileus)

 腹痛を主訴とする。ときに正確な診断をつけようと手をこまねいているうちに、少なからず患者の生命を奪い、担当医師を医療過誤訴訟の被告席に座らせる疾患。とくに絞扼性。これまで、何件か経験しました。

 そのうちの1件。急な激しい腹痛に見舞われて病院に駆け込む。医師は、鎮痛剤を処方し様子を見る。
 こらえてもこらえても痛みは治まらず、我慢強い患者は医師に気をつかいながら、かつて経験したことのない痛みとその執拗な持続を、遠慮しながら控えめに繰り返し述べる。
 死んだほうがましというほどの痛みをこらえながら、薄笑いを繕って。「我慢できません」と。医師は辛抱の足りない患者の大げさな表現だと見抜いたような気になり、鎮痛剤をプラセボ(塩水)に変えて注射。その後、24時間近くも経過観察。重症のショックとなり開腹するも小腸のほどんど全部が壊死して、回復せず。術後も全身状態が持ちこたえられず死亡された。

 良心の医師は語る。イレウスとくに絞扼性の場合、急な激しい腹痛から始まる。これが12時間持続すると小腸の壊死化を否定しえない。腹水がたまり、血流量が減少し、あるいはエンドトキシンと言う毒素が広がり、引き続き12時間で、敗血症性あるいは循環性ショックが成立してもおかしくない。
 この場合、イレウスの典型所見がすべて出そろうわけではない。いずれにせよ、ショックが完成する12時間ないし6時間くらい前にでる、プレショックの症候を見落とさないことが肝要。血圧が一旦上がり後に下がり始めるとともに脈拍が上がる。脈拍が収縮既決圧の0.8程度に迫ってきたら、緊急の試験開腹を決断すべきポイントだと。
 裁判で言う人はなかなかいないが。

{類似語}急性腹症(acute abdomen)急激な腹痛を主症状とする腹部疾患にして、早急に手術を行う必要がある疾患を総括して急性腹症という。たとえ診断が確定しなくても診断のために時間を費やすことなく、早期に回復して診断を下した上、適切な処置を施行すべきであるという概念から生まれた呼称。(南山堂医学用語辞典)

{一口メモ}イレウスは急性腹症で試験開腹

(八尋光秀)
posted by 管理人 at 20:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 読み物
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/32617849
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック