2013年04月30日
新人弁護士向けの研修会を実施しました
4月24日に新人弁護士向けの研修会を実施しました。
内輪の話で恐縮ですが、九州山口医療問題研究会の特徴や活動内容を知っていただく上で一般の方にも参考になるのではないかと考え、内容について紹介させていただきます。
この研修会は、主に昨年12月に弁護士として登録された新人を対象として、九州山口医療問題研究会の取組みについて理解してもらうためのものであり、毎年実施しているものです。
今年も10名ほどの新人弁護士にご参加いただき、私が講師を務めさせていただきました。
新人のみなさんにご理解いただきたかったのは、いくら医療事件をこなしても、弁護士は医療に関しては飽くまで門外漢であるということを肝に銘じる必要があること、一方で、医療研には弁護士をサポートするしくみがあるので、新人でも安心して参加してもらえるということです。
医療に関して弁護士が門外漢であるとは当たり前のことなのですが、重要な視点だと思っています。ある程度医療事件に取り組んでいても、弁護士のみの思い込みで事件処理をしない、やはり自分は門外漢なのだというところに立ち返って、慎重に事件処理をするということが大事だと思います。
医療研では、弁護士の思い込みによる事件処理を防ぐという意味もあって、依頼者の方が医療機関の責任追及をしたいという意向をお持ちの場合でも、いきなり提訴等するのではなく、まず、法的責任追及ができるかどうかの見込みについて調査する、調査事件として事件を受任します。
そして、この段階で、できる限り医学文献を収集して検討し、協力医等、専門家である医師の意見を十分に聞きます。これによって、担当者が当該事件の医学的な問題点について初めて理解することができるのです。
次に、サポートに関してですが、医療研では弁護士が複数で相談や事件の担当をするので、いきなり1人で医療事件を担当しなければならないということはありません。弁護士同士の議論によって個別の事件に対する理解を深めることもできますし、先輩弁護士から医療事件に取り組む上で必要な技術の伝承を受けることもできます。
特に、(専門的な話になって恐縮ですが)医師証人に対する反対尋問は、新人弁護士1人では到底太刀打ちできません。先輩弁護士に事前準備を通じて(みっちりと)指導を受け、現場でもフォローしてもらうことで、やっと乗り越えることができるものです。
また、毎月医師が参加する事例検討会を開催していますので、自分の事件を持ち込んで、医師や他の弁護士からの意見を聞くこともできます。
さらに、弁護士同士で判例勉強会を開いたり、医師を招いて医療ゼミナールを開催したりしており、新人弁護士が望めば研鑽の機会も与えられますし、そのような研究の成果を発表する場面として、シンポジウムや全国交流集会を開催したりということも行っています。
・・・というようなことを、新人研修会で話したつもりですが、新人弁護士のみなさんにはどの程度理解していただいているものやら。研修会後の懇親会で確認してみようかとも思いましたが、全く関係のない話に花が咲き、確認はできず仕舞いでした。
懇親会が楽しい(だけでなく、時に深い話が聞けることもあります)ことは、実は九州山口医療問題研究会の隠れた特徴なのですが、そこは、新人弁護士のみなさんにも伝わったかもしれません。
(石井謙一)
2013年04月19日
ピアサポートのちから
ある男が穴に落ちた。穴が深くてはい上がれない
ちょうど通りかかった医者に助けを求めたが、医者は処方箋を穴に落として去っていった
次に通りかかった神父に助けを求めたが、祈りを書いた紙を穴に落として去っていった
次に友人がきた
「助けてくれ!」と声をかけると、友人は穴に飛び降りた
男は言った
「おいおい、2人とも落ちてどうする」
友人は答えた
「大丈夫。おれは前に落ちたことがあるから脱出の方法を知ってる」
なんだか、よくわからないアメリカンジョークのようですが、これは、わたしがはまっていた海外ドラマ(アメリカの大統領とその側近たちを描いたもの)の中でのセリフです(言い回しは正確ではありませんが)。
このセリフを言った本人がドラマの中でアルコール依存症の問題を抱えていたこともあって、これを聞いて、私が最初に思い浮かべたのは、「ピアサポート」という言葉でした。
「ピアサポート」とは、同じような立場の人によるサポート、同じような課題に直面する人同士が互いに支え合う活動のことです。アルコール依存で悩む人たちが集まってミーティングをして、自分の経験や今の状況、思いなどを語り合ったりする断酒会などが有名で、ご存じの方も多いのではないでしょうか?
アルコールや薬物依存の問題に限らず、子育てに悩むママたちのサークル、障がいのある人の集まり、学生支援、自死遺族の集いなど世の中には色々な分野でピアサポートが行われています。
病気に関しても、肝臓病の患者会、ガンの患者会などがその役割を果たしていることも多いようです。以前もご紹介しましたが、「死生学講座第1回『笑う終活講座』」で講師をつとめてくださった波多江伸子さんも、ともにがんで亡くなったご両親を看取り、自らも二度甲状腺がんを患った経験から、何人もの、死に直面したがん患者の伴走者として活動し、「がん・ばってん・元気隊」という患者サポート活動に従事されています。
医療事故によって自分や大切なひとの健康や命を損なわれてしまった人たちの集まりもあります。
ピアサポートのいいところは、同じような課題を抱えているからこそ悩みを共有できたり、既に同じような悩みを乗り越えた先輩の経験を聞くことで、自分が抱えている課題の解決の糸口がみえたりすることだと思います。
自分が問題に直面したときはもちろんですが、問題に直面している人と会ったら、選択肢としてピアサポートを紹介できるようにしたいです。
もちろん、問題の解決方法として、祈り(宗教)や病気にかかった場合の医師の治療が重要な選択肢であることは言うまでもありませんし、弁護士に相談することで解決できる問題もありますので、相談してみてくださいね!
(緒方枝里)
2013年04月10日
医療研B班会議
当弁護団では、福岡の所属会員をA班・B班の2班に分け、それぞれ毎月1回、勉強会を開催しています。
私はB班に所属しているのですが、去る4月9日、今年度最初のB班会議が開催されました。
勉強会って、どんなことをしているのかと言いますと、以前は、最新判例報告が中心でした。判例タイムズや判例時報といった公刊物に掲載された医療過誤の最新裁判例をみなで検討するというものです。
これは、大変勉強になりました。我々は、医療過誤の専門弁護士を標榜していますので、そうでない弁護士より比較的多く医療過誤の事件を受けていると思います。とはいえ、1人の弁護士が受任する医療過誤事件の数は限られていますし、そのうち裁判にまで至るもの、さらに判決まで至るものというと、それほど多数とは言えません。
裁判例の検討は、ある意味で狭い自分の経験を広げてくれるものであり、特に経験年数の浅い若手弁護士にとっては、非常に意義のある勉強でした。
ところが。昨今、判例時報などの公刊物に掲載される医療過誤事件の件数が、めっきり減ってしまいまして・・・。最新の雑誌から、発表・検討にちょうどいい医療過誤の事案を2件見つけてくるというのが、なかなか困難になってきました・・・。
それが、医療過誤事件の件数が減っているのか、和解で落ちる件数が増えて判決にまで至っていないのか、はたまた患者側冬の時代と言われている情勢を反映し、患者側敗訴の判決ばかりであまり掲載価値がないのか、はたまたそれ以外の理由なのか、はよく分かりませんが、ともかく、最新判例報告のネタを見繕うのが大変になってきました。
そこで最近では、何かテーマを決めて、連続シリーズを企画しています。
過去には、
・書籍『医療訴訟』を読む
・「相当程度の可能性」論について
・損害論の研究
・「産科事故とわたし」に沿って
などなど、いろいろなテーマを設定してきました。
現在は、
・これだけははずせない!最高裁判例
・「法的責任の根拠としての診療ガイドライン」を読む
という2つのテーマが進行中です。
9日のB班会議でもこのテーマに沿って勉強会が行われました。
例えば後者については、今回は、最判平成17年9月8日、「帝王切開術による分娩を強く希望していた夫婦に対し、経膣分娩を勧めた医師の説明が、同夫婦に対して経膣分娩の場合の危険性を理解した上で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務を尽くしたものとはいえないとされた事例」を検討しました。
事案の詳細は割愛しますが、発表者は、そもそも控訴審と最高裁で、説明義務の内容に質的な差があるのではないか、最高裁では、刻々と胎児が育って体重が増加していくことや、内診で複殿位であると判断していたことや、帝王切開術に移行するには一定の時間がかかることなども説明しておくべきとしており、その点が判断の差につながったのではないか、と分析しており、たいへん参考になりました(事案の詳細に興味のある方は、判例時報1912号16頁、判例タイムズ1192号249頁などをご覧下さい。)。
当弁護団では、このように、定期的な勉強会や、先日のブログにもあった事例検討会などを開催し、専門弁護士としての資質を高めるべく研鑽しているところです。
(石田光史)